持久力がついた身体では何が起こっているのか

はじめに

有酸素トレーニングで持久力がつくメカニズムを以前の記事でご紹介しました。

今回は、持久力がついた身体では何が起こっているのかについて掘り下げていきます。

トレーニングを数カ月もしくは数年続けている方は、持久力がついていることを自分でもかなり実感できていると思います。

そのような方の身体では、いったいどのような変化が起こっているのでしょうか。

持久力の仕組み

持久力とは、日常生活における身体活動を著しく疲労することなく、精力的に遂行できる力のことを言います。

私たちはこの持久力を維持するために、日々トレーニングを継続しているのです。

「持久力が良い」という状態は、他のもので例えるなら燃費の良い車に似ています。

少ないガソリンで、より遠くまで行ける車。

私たちの身体で考えるなら、少ないエネルギーで、疲れることなく長い距離を走れる状態を言います。

ここで言うエネルギーとは、筋肉のミトコンドリアで産生されるATP(アデノシン三リン酸)です。

持久力を考える上では、酸素を使っていかに大量のATPを産生できるかが問題となってきます。

酸素を使わなくてもATPは産生できます(無酸素性エネルギー)が、その過程では疲労物質である乳酸が作られるため、すぐに疲れてしんどくなってしまうのです。

持久力をつけるなら、あくまでも酸素を使ったATPの産生(有酸素性エネルギー)が重要となってきます。

 

持久力がついた身体では、有酸素性エネルギーを効率よく産生できるような仕組みが備わっています。

その仕組みは長年のトレーニングによってはじめて培われるものです。

一般の人の身体と比較して、持久力がついた身体では大きく4つの変化が起こっています。

それは、以下の4つです。

・呼吸機能の向上が見られる

・循環機能の向上が見られる

・神経系が発達している

・筋肉が発達している

順を追って説明していきましょう。

呼吸機能の向上

ミトコンドリアで産生されるATPには酸素が必要です。つまりATPの原料となる酸素を多く取り込むために、呼吸機能の向上が必要なのです。

では、呼吸機能とはいったい何で構成されているのでしょうか。3つに分けて解説していきます。

①呼吸筋力

まず、呼吸筋力です。呼吸に関わる筋肉は多くありますが、代表的なものが横隔膜、外・内肋間筋、斜角筋、腹筋などです。

これらの筋肉が有酸素トレーニングの継続によって鍛えられます。

そうすることで呼吸筋力がつき、より多くの酸素を取り込めるようになるのです。

②肺活量

次に、肺活量です。

有酸素トレーニングをする時、できるだけ多く酸素を取り込むために肺は大きく膨らまなければなりません。

ですが肺は内臓なので、自分で膨らんだり縮んだりする能力はありません。

そこで必要となってくるのが、胸郭の動きです。

胸郭は胸骨・肋骨・脊柱で構成されていますが、主に肋骨が動きます。

この肋骨が動くことによって胸郭が広がり、それに伴って肺が膨らんでいく仕組みです。

さらに、この肋骨を動かしているのが先述した呼吸筋で、呼吸筋と胸郭の動きによって肺活量が増え、より多くの酸素が取り込めるようになるのです。

③肺拡散能力

最後に、肺拡散能力です。

肺拡散能力とは、「肺の中に取り込んだ酸素をどれだけ肺の毛細血管に透過させることができるか」という能力です。

私たちの身体は、この肺拡散によって血液の中に酸素を取り込んでいます。

有酸素トレーニングを続けていると、肺活量が増えて肺がより大きく膨らみます。

そうすると肺の隅々まで酸素が行き渡るようになるのです。

また、肺の毛細血管の量も増えていきます。

したがって、有酸素トレーニングによって肺拡散能力が向上し、より多くの酸素を取り込めるようになるのです。

循環機能の向上

呼吸によって血液中に取り込んだ酸素を、次は全身の筋肉に送り届けなければなりません。

この酸素を全身に送り届ける機能を、循環機能と呼びます。

循環機能が良ければ良いほど、同時に持久力も高くなります。

では、循環機能は何で構成されているのでしょうか。

3つに分けて解説していきます。

また、似たような記事もありますのでこちらも参考にしながらご覧ください。

①スポーツ心(しん)

心臓は心筋という筋肉の塊です。

持続的な有酸素トレーニングによって心筋は鍛えられ、筋力が向上していきます。

すると、心臓の1回拍出量(心臓が1回の収縮で送り出せる血液量)が増え、心拍数は減っていきます。

いわゆるスポーツ心と呼ばれる状態です。

少ない力で、より多くの血液を全身に送り届けられている状態と言えます。

例えば、マラソンのトップアスリート選手などは走っていても心拍数はあまり高くなりません。

反対に、持久力のない人は少しの運動でも心拍数が速くなって脈が増えます。

②ヘモグロビン

血液中に溶け込んだ酸素ですが、そのまま全身の筋肉へと運ばれるわけではありません。

ヘモグロビンと呼ばれるものが酸素の運搬に関わります。

要するに、ヘモグロビンは酸素の運び屋というわけです。

持久力がついた身体では、このヘモグロビンの量が増えることが明らかになっています。

ヘモグロビンが多ければ多いほど、呼吸で取り込まれた酸素もたくさん全身へと運ばれて行くのです。

③血管の弾性

有酸素トレーニングによって血管から一酸化窒素という物質が分泌されます。

この一酸化窒素は血管を柔らかくし、ゴムのような状態を維持してくれます。

持久力がついた身体ではまさに、血管がゴムのような状態になっているのです。

それではなぜ、持久力と血管の柔らかさに関係があるのでしょうか。

その答えは血圧にあります。

血管が水道管のように固くて狭い状態になっていると、血圧は高くなり心臓に負担がかかります。

その結果、1回心拍出量が少なくなり、すぐに疲れる身体になってしまうのです。

一方で、血管がゴムのような状態だと心臓は楽に血液を送り出せます。

つまり、持久力と血管の弾性は切っても切れない関係にあるのです。

神経系の発達

次に、神経系の発達について述べていきます。

呼吸や循環機能と同じように、筋肉を支配している神経にも変化が起きているのです。

有酸素トレーニングを続けていると、トレーニングによって頻繁に使われる筋肉が決まってきます。

ランニングや自転車なら下肢の筋肉が主に使われ、エアロビクスやヨガなどは下肢に加えて上肢や体幹、全身の筋肉が使用されます。

脳や神経はそれを察知し、そのトレーニングに耐えるために筋肉をより強いつながりで支配しようとするのです。

この筋肉と神経の強いつながりのことを、神経系の発達と言います。

この神経系の発達はトレーニングを始めてから約1~2カ月の間で生じると言われています。

ですので、長期でトレーニングをされている方はこの神経系の発達が充分に起きていると考えて良いでしょう。

同じトレーニングをしていても身体が軽くなったり、急に楽になったりした経験はないでしょうか。

それらはこの神経系の発達による影響が大きいと考えられます。

筋肉の発達

持続的なトレーニングにより神経系の発達が起こっていれば、もちろん筋肉も発達しています。

ここからは筋肉の発達について述べていきましょう。

筋肉の発達を構成している要素は、大きく分けて下記の4つです。

1つずつ解説していきます。

①筋持久力

有酸素運動では筋力は向上しませんが、筋持久力は緩やかに向上していきます。

筋肉が発達して筋持久力が向上することで、乳酸や一酸化炭素などの疲労物質が溜まりにくくなり、疲れない身体を手に入れることができるのです。

また、筋肉は発達するだけでなく、種類も変わってきます。

遅筋(赤筋)、速筋(白筋)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

遅筋はマラソンやサッカー、水泳などの長距離・長時間運動が得意な筋肉です。

一方で、速筋は短距離走や棒高跳びなどの瞬発力が得意な筋肉です。

有酸素運動の継続により速筋が遅筋に置き変わるという研究もあり、これも持久力がついた身体で起こっている変化の1つです。

さらに深く掘り下げたい方は下記の記事も参考にしてください。

②毛細血管

持久力がついた身体では筋肉の毛細血管も発達しています。

有酸素トレーニングの継続によって、筋肉内の毛細血管が増えることが科学的に証明されています。

肺で取り込まれた酸素は血液のヘモグロビンによって筋肉へと運ばれますが、その酸素のお届け先が筋肉の毛細血管です。

この筋肉の毛細血管が増えれば増えるほど、酸素も多く運ばれて来るので、エネルギーがたくさん産生され、結果的に持久力がつきます。

③ミトコンドリア

ミトコンドリアの発達と増加も、持久力がついた身体では起こっています。

では、ミトコンドリアが増加すると何が良いのでしょうか。

ミトコンドリアはATPというエネルギーを作ってくれる、いわば工場のようなものです。

ATPを作れる工場が増えるわけですから、毛細血管から運ばれてくる酸素を効率的に利用して有酸素性エネルギーを産生してくれます。

結果的に、エネルギーがたっぷりある状態になるので疲れにくい身体ができあがるのです。

④筋グリコーゲン

筋肉中のグリコーゲンも増加しています。

筋グリコーゲンは無酸素性エネルギーですが、有酸素性エネルギーを助けてくれる働きがあるのです。

例えば、走っていると呼吸が荒くなってだんだんしんどくなってきます。

これは、有酸素性エネルギーが無くなってATPの産生が追いついていない状態です。

そんな時に活躍するのが筋グリコーゲンです。

筋グリコーゲンはもともと筋肉の中にある栄養素ですから、直接的にATPを産生できます。

長持ちはしませんが、このように無酸素性エネルギーは有酸素性エネルギーの手助けをしてくれるのです。

手に入れた持久力を維持するために

ここまで、持久力がついた身体で何が起こっているかをまとめてきました。

呼吸と循環機能の向上、神経系の発達、筋肉の発達とさまざまな変化が起こっていました。

しかし、注意しておいて欲しい点が1つあります。

それは、「可逆性の法則」というものです。

可逆性の法則とは、「何もしなければ元に戻ってしまう」という法則のことを言います。

せっかく手に入れた持久力も、トレーニングをやめた途端に元に戻ってしまうのです。

ですから、日常的なトレーニングで持久力を維持することが非常に重要です。

トレーニングは毎日でなくて構いません。一般的に、週3日の頻度のトレーニングが最適と言われています。

「残りの4日間はトレーニングをサボっているじゃないか」と思われるかもしれませんが、心配ありません。

週3日で有酸素トレーニングを行なっていれば、トレーニングをしていない残りの4日間でも消費カロリーが多くなるのです。

これをEPOC(Excess Post-exercise Oxygen Consumption)、日本語に訳すと運動後過剰酸素消費と言います。

トレーニングをしていない日は不安になるかもしれませんが、EPOC現象があるので気楽に普段の生活を送っていきましょう。

まとめ

 

いかがだったでしょうか。

主に持久力がついた身体で何が起こっているかについて述べてきました。

持久力のある身体では、呼吸と循環機能の向上、神経系の発達、筋肉の発達とさまざまな変化が起こっており、それらはトレーニングの継続によってのみ維持されることがわかりました。

今回得た知識を活かして、より良いトレーニングを行っていきましょう。


参考文献


・中村隆一、斎藤宏・他:基礎運動学第6版、(株)医歯薬出版、2015

・細田多穂:シンプル理学療法学シリーズ内部障害理学療法学テキスト改訂第2版、(株)南江堂、2017

・古川順光、田屋雅信・他:内部障害に対する運動療法―基礎から臨床実践まで―、(株)メジカルビュー社、2018

PAGE TOP