ケガをしないための柔軟とウォームダウンの方法


はじめに


「怪我をしないように身体を柔らかくしましょう」「運動の後はウォームダウンをしっかりしましょう」などはよく耳にする言葉です。ですが、どうしたら身体が柔らかくなるのか、なぜウォームダウンが必要なのか、知っている方は少ないのではないでしょうか。

今回は、怪我をしないための柔軟とウォームダウンの方法というテーマです。

このテーマを正しい知識をもとに深く掘り下げていきますので、ぜひ、参考にしてみてください。


怪我をしないための柔軟性


ここでは、怪我をしないための柔軟性について解説していきます。

一般的には、身体が柔らかい人の方が怪我をしにくいと言われています。

反対に、身体が硬い人は怪我をしやすいイメージです。

トップアスリートの選手は、みなさん身体が柔らかいイメージがあるかと思います。

では、身体の柔らかさは何によって決まっているのでしょうか。

柔軟性

柔軟性」を辞書で調べてみると、「柔らかく、しなやかな性質」という言葉が出てきます。

また、柔軟性を英語に訳すと「Flexibility」という単語になり、「曲げやすいこと、しなやかさ、融通自在、弾力性」という意味になります。

人の身体の柔軟性を決める要素は、大きく2つです。

順を追って説明していきます。

関節の可動範囲

まず、関節の可動範囲です。

関節の可動範囲という言葉は、一般的には関節の硬さと表現されています。

つまり、関節がどれだけ動くかという問題です。

関節が動けば動くほど、身体もよく曲がります。

関節は、骨と骨が合わさっているところです。

そして、ある薄い膜がその骨と骨の隙間を覆い包むように張っています。

この薄い膜は、関節包と呼ばれる組織です。

つまり、関節は2つ以上の骨とそれを包む関節包によって構成されています。

関節の可動範囲は、この関節包の硬さによって決まるのです。

関節包が短くつっぱっていて硬ければ、関節も硬くなります。

反対に、関節包がゆるければ、関節も柔らかくなります。

関節包が関節の可動範囲を決めているのです。

生まれつきやスポーツの特性上、関節包がゆるくなっている人は、その分関節が良く動きます。

筋肉の長さと硬さ

次に、筋肉の長さや硬さです。

関節を動かしてくれるのが筋肉です。

筋肉は関節をまたぐように走行しています。

この筋肉が短かったり、硬くなったりしていると、その分関節の可動範囲を狭めてしまいます。

例えば、筋肉痛の時を想像してみましょう。

パンパンに張っている筋肉。

少し動かしただけでも痛いと思います。

その時、なかなか関節は動かないのではないでしょうか。

このように、筋肉が原因で柔軟性が損なわれることがあります。

 

以上、身体の柔軟性に関わる要因を2点解説していきました。

キーワードは、関節の可動範囲と筋肉の硬さでした。

それでは次に、なぜ柔軟な身体が必要なのかを説明していきます。

なぜ柔軟性が必要なのか?

激しいスポーツなどをする際は関節に大きな負担がかかり、必要な可動範囲も大きくなります。

関節の硬い人が無理をして運動をすると、その負荷に関節や筋肉が耐え切れずに怪我をしてしまいます。

しかし、関節が柔らかいと、その負荷を緩衝して怪我のリスクを減らしてくれるのです。

ここで注意しておいて欲しいのは、関節は柔らかければ柔らかいほど良いというわけではないということです。

関節が柔らか過ぎるというのも問題で、次は脱臼してしまうリスクが高くなります。

つまり、関節は柔らか過ぎてもダメで、適度な硬さも必要ということです。

また、ものすごく身体が硬い人が、急にアスリートのような柔軟な身体を手に入れるのは至難の業です。

目標としては、今の自分よりも少し上のレベルをめざし、ゆっくり自分のペースで柔軟トレーニングをやっていきましょう。

柔軟な身体を手に入れる方法

ここでは、柔軟の具体的な方法についてご紹介していきます。

あくまでも、基本的な知識なので、身体の部位ごとの柔軟やストレッチなどは、以下の動画を参考にしてください。

柔軟の方法にはポイントが3つあります。

時間帯

1つ目は、柔軟やストレッチをする時間帯です。

お風呂上りがもっとも適しているでしょう。

関節包などはコラーゲン繊維です。

身体が温まっている方が、コラーゲン繊維も伸びやすくなります。

他には、運動後なども最適です。

運動後は身体が温まっていますし、ウォームダウンの意味合いも込めて適しているでしょう。

時間

2つ目に、柔軟やストレッチにかける時間です。

柔らかくしたい部位があるのであれば、その部位を2~3分間伸ばし続けましょう。

筋肉などは20~30秒でしっかり伸びるのですが、関節包などのコラーゲン繊維を含む組織は、2~3分間のストレッチが必要です。

痛気持ちいいくらいのところでしっかり伸ばしていきましょう。

頻度

3つ目に、柔軟やストレッチをする頻度です。

これは毎日するように心がけましょう。

関節包などは充分にストレッチしても、その持続効果は長くて10分程度と言われています。

したがって、数回ストレッチしただけでは関節包は柔らかくなりません。

毎日柔軟やストレッチをして、しっかり関節包を伸ばしていきましょう。


ウォームダウンについて


ここでは、ウォームダウンについてまとめていきます。

ウォームダウンをしっかり行うことで、怪我のリスクを減らすことができます。

みなさんは、しっかりウォームダウンをしているでしょうか。

ウォームダウンは面倒くさいし、運動の後はすぐ休憩しないとしんどい、という意見が多く聞かれます。

しかし、そこには大きな落とし穴があるのです。

ここではウォームダウンの必要性に加えて、ウォームダウンのメリットもお伝えしていこうと思います。

ウォームダウンとは?

激しい運動をした後、すぐにその運動をやめて休むのではなく、低負荷の運動を続けて徐々に呼吸を整えていくことをウォームダウンまたはクールダウンと言います。

例えば、100m走をした後にすぐに座り込むのではなく、息が整うまでゆっくり歩くことを指します。

または、マラソンでゴールしてしばらくした後に、ストレッチやマッサージを受けることもウォームダウンの1つです。

激しい運動の後はすぐに休憩した方が疲労回復にも良さそうなイメージがありますし、なかなかウォームダウンを習慣化している人は少ないかと思います。

ではなぜ、ウォームダウンが必要なのでしょうか。

ウォームダウンの必要性

ウォームダウンが必要な理由は、大きく3つあります。

1つ1つ解説していきます。

怪我の予防

まず、運動後の怪我を防ぐことになるからです。

ここで言う「怪我」とは、心臓や脳に関わる、命に直結する「怪我」です。

「怪我」ではなく「事故」と表現した方が良いかもしれません。

私たちの心臓は運動中、安静にしている時と比べて数倍もの血液を全身に送り出しています。

運動中、筋肉にはおよそ50倍もの血液が流れ込んでいるとも言われているのです。

その循環している血液は、全身の筋肉の収縮によって心臓に戻されています。

これを筋ポンプ作用と言います。

要するに、運動中は心臓と筋肉がすさまじい速さで大量の血液をキャッチボールしているということです。

血液は心臓と筋肉、脳を行ったり来たりしながら循環を保っています。

しかし、ここで運動を一気にやめて休憩してしまうと、どうなるでしょうか。

行き場を失った血液は心臓に戻れず、全身にうっ血してしまいます。

心臓をはじめ脳にも血液が行かなくなってしまい、めまいや低血圧、吐き気を引き起こします。

そして最悪の場合、意識を失ってしまうのです。

運動中の事故の大部分は、ウォームダウン中またはウォームダウンの不備によって生じると言われています。

それだけウォームダウンは非常に大切なのです。

激しい運動後も軽い運動を続けることで、心臓と筋肉のキャッチボールを続けさせます。

そして、徐々に呼吸と脈を整えていき、運動後のめまいや低血圧、意識消失などの事故を未然に防ぎます。

柔軟性の改善

次に、柔軟性を改善するためです。

激しい運動の後は、体温が高くなった状態です。

この状態で柔軟やストレッチをすることで、関節の可動範囲を効果的に広げることができます。

疲労改善効果

最後に、疲労改善効果があるためです。

運動後に柔軟やストレッチをしっかりすることで筋肉の血液循環が良くなります。

そして、疲労のもととなる老廃物質が取り除かれて行くのです。

結果的に、翌日以降の筋肉痛を軽減してくれたり、疲労が残らない身体に近づいていきます。

 

以上、ウォームダウンの必要性を3点述べてきました。

事故の予防、柔軟性の改善、疲労改善効果などメリットが多くありました。

これからはしっかりウォームダウンをしていきましょう。

次の項では、ウォームダウンの具体的な方法についてお伝えしていきます。

ウォームダウンの方法

ここでは、ウォームダウンの具体的な方法について紹介していきます。

運動直後のウォームダウンと、運動後しばらくしてからのウォームダウンに分けて説明していきます。

運動直後のウォームダウン

運動直後のウォームダウンについてですが、走った後は深呼吸をしながらゆっくり歩いていきましょう。

手は振らなくて大丈夫です。できるだけ全身の力は抜いて、最小限の力でゆっくり歩いていきます。

深呼吸が難しければ、荒い呼吸のままでも構いません。

ですが、徐々に呼吸を整えていくイメージは持っておきましょう。

自転車競技などでも同様の手順です。

最小限の力でゆっくりペダルを漕いでいきます。

これを息が整い、脈も落ち着いてくるまで行いましょう。

約5~10分が適しています。

運動後しばらくしてからのウォームダウン

運動後しばらくしてからのウォームダウンについてですが、座ってできる柔軟やストレッチがおすすめです。

できるだけ全身を伸ばしていきましょう。

関節の柔軟性改善には2~3分、筋肉の疲労改善には20~30秒のストレッチが必要です。

全身の各部位をしっかり時間をかけて伸ばしていきましょう。

痛気持ちいいくらいがちょうど良いです。

ここで重要なポイントは、息をこらえないことです。

息は止めず、深呼吸をしながらストレッチをしていきます。

なぜかというと、息をこらえると血圧が上がるからです。

ストレッチ中に息を止めてしまい、血圧が上がってしまうことをバルサルバ効果と言います。

これでは心臓に負担がかかり、せっかくのウォームダウンの意味がなくなってしまいます。

呼吸はしっかり行って、心臓に負担をかけないようにウォームダウンをしていきましょう。

以下の動画で、おすすめの柔軟とストレッチを紹介します。

ぜひ、参考にしてみてください。

 


まとめ


いかがだったでしょうか。

怪我をしないための柔軟とウォームダウンの方法についてまとめていきました。

身体の柔軟性には、関節の可動範囲と筋肉の硬さが関係しており、これらを改善していくことが必要でした。

急にアスリート選手のように身体は柔らかくならないので、自分のペースで柔軟を続けていきましょう。

また、ウォームダウンの必要性にも触れました。

ないがしろにしがちなウォームダウンですが、ウォームダウンをしないと重大な事故を引き起こす可能性があります。

その他にも、ウォームダウンにはメリットが多くあるので、ぜひ実践していってください。


参考文献


・Ryan ED, et al:The time course of musculotendinous stiffness responses following different durations of passive stretching. J Orthop Sports Phys. 2008

・細田多穂・他:シンプル理学療法学シリーズ内部障害理学療法学テキスト改訂第2版、(株)南江堂、2017

・古川順光、田屋雅信・他:内部障害に対する運動療法―基礎から臨床実践まで―、(株)メジカルビュー社、2018

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