はじめに
ライター名:濱南くにひろ
経歴:公立大学を卒業後、理学療法士の国家資格を取得。資格を活かし、病院での勤務や車イスバスケットボールチームでのトレーナー経験を持つ。
持久力がつくような運動をされている方は多いと思います。
健康のため、トレーニングのため、体力をつけるため、美容のためなど、目的はさまざまです。
しかし、いくらトレーニングをしている方でも、「どういう仕組みで持久力がつくのか」を知っている方は少ないのではないでしょうか?
今回は、トレーニングによって持久力がつくメカニズムについてお伝えしていきます。
持久力って何?
そもそも、持久力って何なのでしょうか。
持久力とは、日常生活における身体活動を著しく疲労することなく精力的に遂行できる力のことを言います。
体力と言い換えることができるものです。
持久力はトレーニングによって向上しますが、トレーニングを中断してしまうと元に戻ってしまう傾向があります。
そのため、日常的にトレーニングをしていないと、一度向上した持久力は維持されません。
持久力を適切なレベルに維持するためには、日常生活で必要とされるレベルの運動よりも、負荷の強いトレーニングを継続的に行っていく必要があります。
エネルギーは2種類に分けられる
私たち人間はエネルギーによって身体を動かしています。
エネルギーが筋肉を収縮させ、身体を動かしているのです。
このエネルギーのことを、ATP(アデノシン三リン酸)と呼びます。
では、このATPはどのように作られているのでしょうか。
ATPの産生過程には大きく分けて2種類あります。
したがって、人間には2種類のエネルギーが存在することがわかります。
無酸素性エネルギー
まず、無酸素性エネルギーのお話。名前の通り、酸素を必要としないエネルギーです。
もともと筋肉の中に貯蔵されている糖分や筋グリコーゲン、ATPなどを指します。
これら無酸素性エネルギーが使われる時の実際の例をあげてみましょう。
学校の教室で机に座っていたとします。
授業を聞いていると、ボールペンが転がって今にも机から落ちようとしています。
そこで手を咄嗟にパッと動かしてボールペンを止めました。
この時にボールペンを止めた手と腕の運動が、まさに無酸素性エネルギーによるものです。
無酸素性エネルギーは、このように短時間で完結する俊敏な動きに使われます。
イスからの立ち座りなどもこれに含まれます。
有酸素性エネルギー
2つ目のエネルギーが、持久力に大切な有酸素性エネルギー。名前の通り、酸素を必要とするエネルギーです。
有酸素性エネルギーは、筋肉の細胞の中にあるミトコンドリアという器官で作られており、ウォーキング、ランニング、自転車漕ぎなど、長時間の運動の際に必要不可欠となってきます。
運動した時は息が切れると思いますが、これは酸素を取り込んで有酸素性エネルギーを作り出すためなのです。
呼吸をして肺から取り込まれた酸素は、心臓と血管を通じて筋肉に送られます。
そして、筋肉の中にあるミトコンドリアに届けられ、そこで有酸素性エネルギーが産生されるのです。
日常生活で言えば、仕事、家事、歩くという行為も有酸素性エネルギーが利用されています。
以上、2つのエネルギーについて解説してきました。
特に有酸素性エネルギーについては、持久力がつくメカニズムを考える上で非常に重要となってくるので、しっかり頭に入れておきましょう。
運動中に起こる身体の変化
ウォーキングやランニング中、身体ではさまざまな変化が起こっています。
当たり前ですが足や腕は絶えず動いていますし、身体が温かくなり汗をかいてきます。
この他にも身体に起こる変化は複数ありますが、どんなものがあるでしょうか。
運動で起こる身体の変化は、大きく3つあります。
①呼吸の変化
まず、呼吸の変化です。
運動すると口は大きく開き、呼吸は速く深くなります。
胸や肺は大きく膨らみ、できるだけ酸素を取り込もうと活動しているのです。
これは、ミトコンドリアで有酸素性エネルギーを産生するために必要な最初の過程です。
取り込める酸素が多いほど、産生できるエネルギーも多くなります。
②心臓の変化
自律神経は交感神経が優位に働き、心臓は強く速く脈打ちます。
肺で取り込んだ酸素を血液によって全身(特に筋肉)に送り届けるためです。
運動中、心臓の1回拍出量(心臓が1回の収縮で送り出せる血液量)は1.5~2倍、心拍数は安静時の2~3倍に増加すると言われています。
これによって、運動時の心拍出量(心臓が1分間に送り出せる血液量)は約5倍へと増加します。
これだけ運動では筋肉に血液と酸素が必要なのです。
③血流分配の変化
血液の分配も変わってきます。
安静時、筋肉への血液量は全体の15~20%で、血液の多くは肺や内臓などの臓器に分配されています。
しかし、運動時の筋肉への血液分布は80~85%まで増加するのです。
これはおよそ50~75倍もの増加で、運動時、どれだけ筋肉が血液を欲しているかがわかると思います。
これも全て、ミトコンドリアで有酸素性エネルギーを産生するためです。
持久力がつくメカニズム
ここまで持久力に関わる基礎知識を学んできました。
ここからはいよいよ、トレーニングによって持久力がつくメカニズムについて解説していきます。
これまでに理解してきた基礎知識が活きてくるので、おさらいしながら進めていきましょう。
トレーニングによって持久力がつくメカニズムには、大きく6つの要素があります。
神経系の発達
まず、筋肉を支配している神経が発達していきます。
有酸素トレーニングを続けていると、トレーニングによって頻繁に使われる筋肉が決まってきます。
ランニングや自転車なら下肢の筋肉が主で、エアロビクスやヨガなどは下肢に加えて上肢や体幹、全身の筋肉が該当します。
脳や神経はそれを察知し、そのトレーニングに耐えるために筋肉をより強いつながりで支配しようとするのです。
これが持久力のつくメカニズムの第一歩です。
この神経系の発達はトレーニングを始めてから約1~2カ月の間で行われます。
ビギナーズラックという言葉がありますが、トレーニングを始めてからすぐに身体が軽くなったり、今までやっていたトレーニングが急に楽になったりした経験はないでしょうか。
それらはこの神経系の発達による影響が大きいと考えられます。
筋肉の発達
神経系が発達した後は、筋肉が発達していきます。
筋力や筋持久力が向上し、強い負荷のトレーニングにも耐えられるようになるのです。
しかし一方で、有酸素運動により筋持久力はある程度変化するものの、筋力はほとんど影響を受けないという研究結果もあります。
したがって、有酸素運動では筋力は向上しないが、筋持久力は緩やかに向上していくといったニュアンスで解釈しておきましょう。
筋肉が発達して筋持久力が向上することで、乳酸や一酸化炭素などの疲労物質も溜まりにくくなり、疲れない身体を手に入れることができます。
また、筋肉が発達するだけでなく、種類も変わってきます。
遅筋(赤筋)、速筋(白筋)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
遅筋はマラソンやサッカー、水泳などの長距離・長時間運動が得意な筋肉です。
一方で、速筋は短距離走や棒高跳びなどの瞬発力が得意な筋肉です。
有酸素運動の継続により速筋が遅筋に置き換わるという研究もあり、これも持久力がつくメカニズムの1つになります。
毛細血管の発達
次に、毛細血管の発達です。
有酸素トレーニングの継続によって、筋肉内の毛細血管が増えることが科学的に証明されています。
肺で取り込まれた酸素は血液にのって筋肉へと運ばれます。
その酸素のお届け先が、筋肉の毛細血管です。
この筋肉の毛細血管が増えれば増えるほど、酸素も多く運ばれて来るので、エネルギーがたくさん産生され、結果的に持久力がつきます。
ミトコンドリア数の増加
次に、ミトコンドリアの増加です。
有酸素トレーニングの継続によって、筋肉の中のミトコンドリア数は増加します。
では、ミトコンドリアが増加すると何が良いのでしょうか。
基礎知識でも学びましたが、ミトコンドリアはATPというエネルギーを作ってくれるいわば工場のようなものです。
ATPを作れる工場が増えるわけですから、毛細血管から運ばれてくる酸素を効率的に利用してエネルギーを産生してくれます。
結果的に、エネルギーがたっぷりある状態になるので疲れにくい身体になっていきます。
筋グリコーゲンの増加
次に、筋グリコーゲンの増加です。
筋肉の発達にともない、筋肉内の筋グリコーゲンも増えます。
筋グリコーゲンは無酸素性エネルギーですが、有酸素性エネルギーを助けてくれる働きがあるのです。
例えば、ランニングをしていると、呼吸が荒くなってきてだんだんとしんどくなってきます。
これは、有酸素性エネルギーが枯渇してATPの供給が追いついていない状態です。
そんな時に活躍するのが筋グリコーゲンです。
筋グリコーゲンはもともと筋肉の中にある栄養素ですから、直接的にATPを産生できます。
長持ちはしませんが、このように無酸素性エネルギーは有酸素性エネルギーの手助けをしてくれるのです。
心臓の発達
最後に、心臓の発達です。
心臓も心筋という筋肉の塊です。
したがって、有酸素トレーニングによって心臓は発達しますし、毛細血管も増え、ミトコンドリア数も増加します。
そうすると心拍数は上がりにくくなり、1回心拍出量と心拍出量が増大します。
つまり、少ないエネルギーで効率的に多くの血液を送り出せるようになるのです。
いわゆる、「心臓が強い」と言われる状態です。
持久力がつくまでにどのくらいかかるのか?
トレーニングによって持久力がつくメカニズムは理解することができました。
大きく6つの要因が関与していました。
では、持久力がつくまでにはどのくらいの期間が必要なのでしょうか。
結論から言うと、トレーニングを始めてから2~3カ月でやっと効果があらわれてきます。
先ほども述べましたが、持久力がつくメカニズムの1つに神経系の発達があり、その神経系の発達には約1~2カ月かかるのです。
神経系の発達の後、筋肉が発達してきたり、毛細血管やミトコンドリアの数が増えたりしてくるので、最終的に持久力がつくのはトレーニングを始めてから約2~3カ月になります。
つまり、有酸素トレーニングには数カ月の継続が必要だということです。
継続は力なりです。
まとめ
トレーニングによって持久力がつくメカニズムについてまとめていきました。
いかがだったでしょうか。
そのメカニズムには、神経系の発達、筋肉の発達、毛細血管とミトコンドリアの増加、筋グリコーゲンの増加、心臓の発達の大きく6つが関与していました。
「持久力とは何か」から始まり、無酸素性エネルギーと有酸素性エネルギーの理解など基礎知識から理解を深めていきました。
今回の知識を活かして、普段のトレーニングをより良いものにしていきましょう。
参考文献
・中村隆一、斎藤宏・他:基礎運動学第6版、(株)医歯薬出版、2015
・細田多穂:シンプル理学療法学シリーズ内部障害理学療法学テキスト改訂第2版、(株)南江堂、2017
・古川順光、田屋雅信・他:内部障害に対する運動療法―基礎から臨床実践まで―、(株)メジカルビュー社、2018