常日頃トレーニングに励むランナーたち。
「たくさんの距離を走りこんで、スタミナは充分付いているはず!」と自信を持っていても、いざ試合で走ってみると、思ったような結果が出なかったという経験は、誰でも持っているのではないでしょうか?
振り返ると、体調が悪かった、天候が良くなかったなどさまざまな要因が考えられますが、「自分の能力が不足していただけ」という可能性もあります。
その代表とも言えるのが、今回取り上げるRE(ランニングエコノミー)です。
ランニングの効率を表すワードですが、重要であるのにも関わらず、あまり認知されていないことも多い現状があります。
また、RE=ランニングフォームのことだと誤解されている方も多いです。
正しくREを理解して、もっと速く走れるようなトレーニングとなるよう工夫していきましょう。
フォームだけではないRE
REを考える際、大切にする要素が3つあります。
それが、「フォーム、エネルギー、筋肉・循環器」です。
ここで重要なのは、それぞれが独立しているのではなく、関連し合ってREを構成していることです。
車に置き換えて考えてみましょう。
車体が大きく排気量が大きい車と、車体が小さく排気量も少ない車であれば、どちらが長い距離を速く走ることができるでしょうか?
運転技術が同等で燃料を気にしないのであれば、大きい車が勝つことは目に見えています。
しかし、仮に両車で同量の燃料が入れられているとしたらどうでしょう?
車体が大きい車の場合、重い分燃料の消費も激しいため、アクセル全開で飛ばしていては、そもそも決められた距離を完走できるかすら分かりません。
そのため、相当なエコ走法でゴールを目指すでしょう。もちろん、全力よりも遅いスピードで走ることになります。
対して車体が小さい車の場合は、車体が軽いため効率的にエネルギーを利用でき、全力に近いスピードで走ることも可能です。
このように考えると、「燃料=エネルギー、車体の大きさ=筋肉・循環器、燃費=フォーム」と置き換えて人間にも適応できることが分かります。
体重が重く筋肉量が多いとたくさんのエネルギーを蓄えることができますが、その分消費するエネルギーも多くなります。
対して、体重が軽く筋肉量が少ない場合は、蓄えられるエネルギーは少ないですが、その分エネルギーロスも少なくなるのです。
長距離走は体格の差で勝敗が決まらないと言われる所以はここにあります。
その分、自分の特徴を知りトレーニングをすることが大切なのです。
マラソンにスピード練習が必要なのはなぜ?
少し話が逸れますが、ここでマラソンとスピードについて考えてみましょう。
コアな陸上ファンの方ならご存知かと思われますが、近年はマラソンの高速化が進んでおり、男子の世界記録も2時間2分台に突入しました。
日本でもマラソンにおけるスピード練習の重要性が強調されるようになり、以前のような長い距離を走りこむ練習から、トラックレースなど速いペースで進むレースに対応できる力を身に付けることが先決といった考え方も広まってきました。
しかし、この風潮に疑問を覚えている人もいるのではないでしょうか?
「なんでマラソンでスピード練習が重要なの?」
この疑問に、REの考え方を紐解くヒントが隠されています。
LT、OBLAとの関連
LT(作業性乳酸閾値:乳酸の生産が急激に増える地点)、OBLA(乳酸蓄積開始点:血中乳酸濃度が4mmol/lに達する地点)は長距離走のパフォーマンスを決定する上で極めて重要な要素です。
この付近のペースでの練習がパフォーマンスの向上に有効であることが分かっていますが、同時にこれらの地点に達した際に走行可能なスピードが重要になってくるのです。
レースでは、必ずLTやOBLA付近のペースで走る場面が生まれます。
そこで体内にある糖(エネルギー源)を温存しながら走ることができれば、その後の余裕度も大きく変わってきますね。
長距離走でのREの考え方はこれに近く、いかに体内のエネルギー消費を少なくして速く走ることができるかを表す指標と捉えましょう。
そのため、マラソン練習の際にもスピード練習を取り入れることで、速い動きの中でもエコな走りをできるようにすることが大切になるのです。
動きの余裕
スピード練習を行うことで生まれるメリットは、循環器系に留まりません。
速い動きが身に付いて、リズムの組み立てが行いやすくなる利点もあります。
あまりピンとこないかも知れませんが、マラソンにはリズムが非常に重要です。
そのリズムを手に入れるためには、広い可動域を持つことが必要になります。
日頃のダイナミックストレッチや動き作りでも身に付きますが、やはり実際に走る中で可動域を広く使った動きを磨くことが大切です。
一般的な市民ランナーは、ジョギングの距離を伸ばして長く走る練習を選びますが、それは古いと言えるでしょう。
長い距離を走ると、どうしても疲労が蓄積し、身体の節々にもダメージが残りやすくなります。
うまく抜くことができれば良いのですが、疲れを残したまま練習を続けていくと、身体は自然とダメージを減らそうとして動きを制限するようになります。
悪循環が重なって、自然と小さな動きが身に付いてしまい、十分に可動域を活かせなくなるのです。
そのため、適度なスピード練習をジョギングの間に織り交ぜることで、大きく身体を使う感覚を養うことができます。
既に疲労の蓄積が大きく、筋や腱に痛みが出ている場合は故障のリスクを上げてしまいますが、身体が比較的フレッシュな場合にはタイミングを見計らって練習メニューに導入してみましょう。
REを高めるトレーニング
さて、ここからはREを高める練習について考えていきましょう。
いくつかアプローチの方法があるので、今回はケース別に考えていきます。
あくまでアプローチの仕方を区別しているだけなので、さまざまな要素が絡み合ってREが定義されていることは理解しておきましょう。
①フォームの修正
「フォームがREの全てではない」と述べましたが、REを構成する要素の1つではあります。
「フォームが良くない」と頻繁にいわれる人は、修正する努力を怠ってはいけません。
走りの中で正していくことが基本になりますが、決定的な欠陥が見られる人は、動作を区切った動き作りが有効です。
動画は、足を前に出す際の動きを身につけるドリルです。
多くの人が、足運びの際に後ろに足を引く意識が強すぎて、エネルギーロスを生み出しています。
重要なのは、前に出した足に真っすぐ身体を乗せていく動作です。
こうすることで、骨盤周りの筋やハムストリングスが動員されて大きなパワーを発揮することができます。
次の動画は、足さばきを身に着けるためのドリルです。
足さばきの局面で無駄な動きが入り、接地のタイミングがずれたり、偏った筋に負担が集中したりする欠点がある人はぜひ取り組みたいメニューと言えるでしょう。
ポイントは軽やかな動きを通して細かい部分を修正していくことです。
ゆっくり動かし過ぎても、パワーが伝わった状態での動きにつなげることは難しくなります。
軽やかな動きを意識しつつ、無駄な動きが入っていないか、きちんと地面からの反力を感じながら足を動かす事ができているかに気を配って、取り組むよう心がけましょう。
走る際の姿勢を作るドリルです。
このドリルでは、腰のポジションを上げることを意識します。
腰の位置を上げることで、地面からの反力をより得ることができるだけではなく、伸びやかでリズミカルな動きを習得しやすくなります。
疲れたときに重心が落ちやすい人は、ジョギングなどでも後半の姿勢に気を付けながら走りましょう。
②レペテーショントレーニング
試合のペースで走るトレーニングです。
実際にレースペースの刺激を加えることで、動きを最適化していく目的があります。
そのため、正しいフォームの中でスピードを磨いていくことが大切です。
休憩時間は長く取って構わないので、正しいフォームで走ることができる状態まで身体を回復させてから走り出すようにしましょう。
おかしなフォームでもがくように走っても、かえってスピードの低下につながるだけです。
また、レペテーションペース(全力疾走)で走る時間は、2分~3分が好ましいとされています。
長時間レースペースで走ると、後半に動きが乱れるリスクが高くなりすぎるためです。
あくまできちんとしたフォームを維持できる範囲で、スピードを磨くことに重きを置きましょう。
以下に、おすすめの練習メニューをいくつか挙げます。
☆400m×5本(rest 3~4分,400mjog or walk)
☆1000m×3本(rest 6~10分,jog or walk)
中距離選手でスピードをより重視したい場合は、もっと休憩時間を取っても良いでしょう。
③プライオメトリックトレーニング
筋肉の伸張反射のメカニズムを利用した瞬発系のトレーニングです。
筋の収縮速度を高めることが目的で、同じ動作を行った際に引き出すことができる筋のパワーを向上させる効果が期待できます。
代表的なメニューをいくつか見ていきましょう。
デプスジャンプ
ボックスの上から地面にそっと降りて、そのまま上に跳ね上がるトレーニングです。
膝の力で跳ぶのではなく、地面から受け取った力を健へと伝えて跳ね上がることを心がけます。
ポイントは、接地する部分です。
つま先から降りるのではなく、足裏全体で地面を捉えて、接地した瞬間に身体が一本の棒になったように真っすぐ伸ばして最大限の力を得ましょう。
バウンディング
勢いをつけてホップしていくトレーニングです。
デプスジャンプでは鉛直方向の動きでしたが、バウンディングでは前方への動作を加えていきます。
気を付けたいのは腕の動きで、下半身と連動させて大きく振ることを心がけます。
また、接地がどうしても前方に行きすぎて腰が付いていかなくなりやすいので、腰を支持脚に乗せていくイメージで、全体重を上手に利用するようにしましょう。
以上2つが代表的なメニューです。
どちらも、筋や腱に大きな負荷がかかるため、身体に異常がある際の実施は慎重に判断しましょう。
フレッシュな状態で行わなければ、かえって悪影響をもたらしてしまいます。
プライオメトリックトレーニングと長距離走
プライオメトリックトレーニングは主に陸上の短距離選手や投擲選手のトレーニングとして取り組まれてきました。
爆発的なパワー発揮が求められる種目で必要なトレーニングですが、長距離の世界でもスピード化が重要視され、注目が集まっています。
しかし、長距離走におけるプライオメトリックトレーニングの効果には賛否両論あり、必要ないとの主張があるのも事実です。
ランニング初心者は効果が目に見えて分かりやすいですが、継続して行っていくとなかなか効果が実感できなくなるものなので、他のトレーニングとの兼ね合いを見ながら取捨選択をしていきましょう。
まとめ
今回はREについての解説を行ってきました。
REは複雑な指標であり、さまざまな要素が絡み合って構成されていることが理解できたと思います。
一年間継続して練習を行う市民ランナーになると、調子の変動が必ずあります。
中々思うような走りができないと感じた際には、ぜひREを見直してみてはいかがでしょうか?
適切な動きを取り戻し、ベストなコンディショニングが戻ってくるはずです。
普段の練習にプラスして、大きな成長へとつなげていきましょう!