スポーツのパフォーマンス発揮と噛み合わせの関連

ラグビーやボクシングなど相手と身体がぶつかるスポーツでは、衝撃を受けたときに踏ん張る必要があります。

上半身や下半身を鍛えることで、大きな衝撃に耐える身体づくりを行いますが、いくら筋肉を増やしてもその力を発揮できなければ意味がありません。

身体全体の力を十分に発揮できるように、私たちは歯を食いしばることで対応しています。

ラグビーやボクシングなどの選手がマウスピースを装着しているのはこのためで、パフォーマンスを高めるために重要な噛み合わせを最適化しているのです。

コンタクトスポーツではパフォーマンスと噛み合わせの関連は以前から注目されていましたが、最近ではさまざまなスポーツでも噛み合わせが重要であることが分かってきました。

そこで今回は、ジャンルを問わずスポーツのパフォーマンス発揮と噛み合わせが持つ関連に注目し、その真相について考えていきます。

トレーニングではあまり意識することがなかった「歯」について学んでいきましょう。

正しい歯並びとは?

まず最初に、一般的にきれいとされている歯並びを知りましょう。

奥歯をしっかりと噛んだ状態で鏡を見て、次のうちどの噛み合わせに当てはまるかをチェックしてみてください。

理想的な歯並び・噛み合わせ

良い歯並び、正しいかみ合わせ

上下の前歯の中心があっており、上下方向、前後方向に2~3cm重なっているのが理想的な歯並び・噛み合わせです。

この形だと、口でしっかりと踏ん張ることができ、力のロスが少なくなります。

見た目にもきれいな歯並びなのは間違いないでしょう。

悪い歯並び・噛み合わせ

これらは非常に多くのタイプがあり、さまざまな分類がなされています。

今回は、その中でも代表的なものを取り上げます。

叢生(そうせい)

叢生

歯の大きさとあごの大きさがミスマッチであり、歯並びがデコボコになっている状態です。

悪い歯並びの例としてよく挙げられるものであり、見た目もあまりよくありません。

この形の場合は、歯磨きが行いにくいため、虫歯や歯周病になるリスクが高いと言われています。

入念な歯磨きが必要です。

上顎前突(出っ歯)

上顎前突(出っ歯)

こちらも悪い歯並びの例としてよく取り上げられています。

上の前歯が下の前歯に対して4cm以上前に出ている状態であり、通常時に歯が浮いてしまうのが特徴です。

そのため、歯を食いしばった時に十分な力が伝わりにくいとされています。

また、口呼吸が主導になりやすいため、風邪をひきやすくなるとも言われています。

反対咬合(受け口)

 反対咬合(受け口)

先ほどの出っ歯とは反対に、上の歯よりも下の歯が4cm以上前に出ているのが反対咬合です。

こちらの形でも、しっかりと歯で踏ん張ることができず、力の発揮が減少してしまうと言われています。

顔面非対称

顔面非対称

骨格がずれており、歯の位置が上あごと下あごで異なっている状態です。

こちらの形では、しっかりと噛み合わせはできるのですが、左右のバランスが悪く顎関節への負担が大きいとされています。

また、姿勢も崩れやすく、身体がゆがむ傾向にあるのが特徴です。

「歯並び 基準」の画像検索結果

心・技・体と歯

昔、学校の体育の授業で次のような言葉を聞いたことがありませんか?

「体育では、心・技・体が大切だ」

これは基本中の基本で、運動に親しむ者もそうでない者も心に留めておかなくてはいけない言葉です。

そして、トレーニングの場ではこの心・技・体を専門的な視点から実現できるようにアプローチをしていきます。

例えば、野球のバッティングではボールをしっかりと捉えることができるように「視線を一定に保て」というアドバイスが飛びます。

視点を一定に保つということは頭を動かさないということであり、さらに広く考えるならば身体全体のブレを軽減させることが必要です。

そのアドバイスをきちんと実行しようとすると、自然と歯をくいしばり身体のブレを無意識のうちに抑えようとすることが分かります。

「無意識に」というのが重要なポイントで、人間は力を発揮するときに知らず知らず歯でバランスを取っているのです。

この事実から、歯がスポーツでの心・技・体の充実に向けて大きな貢献度を持っていることが言えそうです。

高齢者の元気度は歯で決まる?

高齢になっても元気な方はたくさんいらっしゃいますが、彼らの元気の源が歯に関連している可能性が最近の研究で分かってきました。

皆さんは「8020」という言葉をご存知でしょうか?

「80歳になっても20本の歯を保とう」という意味が込められており、たくさんの「8020達成者」がいますが、彼らは20本未満の歯しか保持していない人よりも外出をするのが容易であったり、身体の揺れが少なく安定して立つことができるという研究結果が出ています。

また、そのほかにもスポーツ習慣のある人とない人では歯の本数に違いがあるなど、生活習慣病を予防するために歯や口が重要な役割を担っているのです。

きれいな噛み合わせがもたらすメリット

きれいな噛み合わせがトレーニングやスポーツで私たちに与えるメリットは何でしょうか?

いくつかご紹介します。

①筋力アップ

陸上の100m走では、スタートダッシュの時に歯を食いしばると良いスタートができると言われています。

スタートダッシュでは爆発的な力の発揮が大切なので、歯を食いしばって全身の筋動員に備えているのです。

きちんとした噛み合わせならば、通常時よりも4~6%も筋力を高めることができると言われています。

コンマ数秒を争う陸上短距離走ではもちろんのこと、少しの差で勝敗が決するスポーツの世界では、これだけの差がつくのは大きいことなのです。

②姿勢の安定

歯並びは姿勢と直結しています。

遠い部位なのでイメージがつきにくいですが、首は胸椎と腰椎、歯は股関節と関連しており、一か所のバランスが崩れると全体が崩れます。

つまり、歯の噛み合わせが良くなれば、ほかの場所のバランスもよくなるということです。

フィギュアスケートの選手は美しいスケーティングに近付けるため歯並びの矯正を行うと言いますが、これは全体の姿勢を整えることが狙いだったのです。

③集中力アップ

噛み合わせが良くなると、集中力まで高まります。

これは、しっかりと噛み合わせることで脳への血流量が増し、脳活動が活発になるためだと言われています。

一瞬の状況判断が大切な勝負の世界において、集中力は欠かせません。

噛み合わせは、脳への良い効果も持ち合わせていたのです。

なぜ噛み合わせでこれだけの効果が出るのか?

その真相を解き明かすカギは、歯の周囲にある「歯根膜」と呼ばれる繊維組織にあります。

歯は一見頑丈な固形物ですが、強く噛み合わせたときはミクロン単位で生理的に沈み込みます。

歯の根の先端部分周辺には三叉神経の末端の一部が歯根膜に絡み込んでおり、沈み込みによって圧がかかると、脳にその情報が伝わります。

脳への情報の興奮度が高いとほかの部分にも拡散していき、骨格筋に関与する細胞にも伝わって、より細胞活動を高めるという生理的な流れがあるのです。

また、触覚や圧力などの感覚、食べ物の硬さや唾液量などの情報も脳に伝える働きを歯根膜は持っています。

ご飯をよく噛んで食べることも、歯と歯と接触面積の増大につながって脳の活性化につながるのです。

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歯を健康に保つために

きれいな噛み合わせを実現するためには、きれいな歯を保つことが大切です。

虫歯があると、そこが炎症を引き起こして痛みが出るため、自然とその部位に負荷をかけないようにします。

これではバランスの悪い咀嚼となり、次第に噛み合わせが悪くなっていきます。

スポーツに親しむ人は身体づくりのために食事をする回数が多く、糖分をエネルギー源として摂取することが多いため、虫歯になりやすい傾向です。

では、歯を健康に保ち歯並びをきれいにするにはどうしたら良いのでしょうか?

フッ素を歯に取り込む

虫歯の原因は、虫歯菌によって歯が溶けていくことです。

そこで、虫歯菌の働きに負けない丈夫な歯を作る必要があります。

おすすめなのがフッ素入り歯磨きです。

カルシウムと協力して歯を丈夫にする働きを持っています。

フッ素入りの洗口剤で口をゆすぐなど、日頃から歯にフッ素を取り込んでいきましょう。

特にトレーニングとの兼ね合いで間食の量が多い人は、時短できる洗口剤が良いかもしれません。

唾液を分泌させる取り組み

唾液は糖の分解に加えて、口内を清潔に保つ役割を担っています。

食事の時に唾液がたくさん出るように、日頃から唾液腺マッサージを行ったり、食事の時によく噛んで食べることを意識しましょう。

キシリトールガムを噛むなどして、唾液の分泌を促進するのも有効な手段の一つです。

また、唾液の量や質には個人差があり、体質的に唾液の分泌機能が弱い人がいます。

専門機関では自分の唾液がどのような特徴を持っているか調べることもできますので、歯のことで悩みがあれば調べてみることをおすすめします。

マウスピースを装着する

コンタクトスポーツの選手がプレー中に装着する印象が強いマウスピースですが、他の場面でもマウスピースを装着することでさまざまな恩恵を得ることができます。

歯の健康を守るアイテムとしてうってつけ、マウスピースの利点を見ていきましょう。

①スポーツ中の怪我防止

1つ目は、一般的に広がっている利点であるスポーツ中の怪我防止です。

通常は上あごだけに装着し、力を発揮する時に歯にかかる圧を和らげる効果があります。

私たちは意識することはありませんが、運動時は予想以上に強い負荷があごや歯にかかっています。

そのため、歯並びが悪かったり歯の強度が弱かったりすると、唇や頬、舌が切れたり、歯が欠けたりします。

噛み合わせが極端に悪い場合は、あごの骨が折れてしまうケースも発生しているそうです。

これらのことを防ぐために、マウスピースを装着してあご周りの安定性を高めましょう。

②歯ぎしり対策

マウスピースを運動時に装着するだけではなく、睡眠時に装着するタイプもあります。

運動時は上あごだけでしたが、睡眠時用は下あごにも装着して、歯ぎしりによって歯が欠けることを防ぐのです。

歯の物理的な形状に変化が起こると、運動時の噛み合わせの感覚が変わる場合があり、それが原因で理想的だった噛み合わせが悪くなることもあります。

睡眠時の予測できないトラブルに備えて、健康な歯を保ちましょう。

③知覚過敏対策

歯ぎしりなど何らかの原因で歯のエナメル質が削れてしまうと、その内側にある象牙質と呼ばれる部位が表に出てきて歯がしみるようになります。

これは知覚過敏の典型的なパターンで、このような悩みを持っている人は痛みが出るのを無意識に恐れて十分に噛み合わせることができません。

そんな人でも、マウスピースによって象牙質に刺激が伝わるのを防げば、しっかりと噛み合わせることができます。

④顎関節症対策

顎関節症で苦しむ人にとっても、マウスピースは有効です。

あごの関節への衝撃が緩和され、強い衝撃に耐えることができるようになります。

「口を開けるとあごが痛い」「あごが鳴る」などの症状も、あごへの負担が減れば改善傾向に向かうでしょう。

歯並びの根本的な治療は難しい?

ここまで歯並びの重要性などをお伝えしてきました。

ただし、歯並びについての根本的な解決ではありませんでした。

というのも、前述したように姿勢の改善などでも一定の改善は可能です。

しかし大幅な改善は手術などの措置を取らないと難しいのが現状です。

歯科矯正であれば、現代の技術だと、昔のようにワイヤーを歯の前面につけて矯正をする方法だけではなく、目立たないように歯の裏面に取り付ける、マウスピースで少しずつ矯正していくなどの選択肢もあります。

スポーツだけでなく、健康にも大きく影響するため、可能であれば早く矯正される事をおすすめします。

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まとめ

今回は歯をテーマに解説をしていきました。

なかなか注目しませんが、スポーツやトレーニングと密接な関連にあることが分かって頂けたと思います。

大切なのは、自分の歯列がどのような特徴を持っているかを知ることです。

今まで意識してこなかった歯について、少しでも興味を持って行動すると、さらなるレベルアップにつながります。

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