パワークリーン完全ガイド、シリーズ3回目です。
今回はより良いフォームをつくる方法と、パワークリーン上達に役立つ補助種目を紹介していきます。
他のトレーニング種目にはないパワークリーン独特のバーベル操作をつかむヒントにしてください。
良いフォームとは?
パワークリーンのよいフォームとは
・全身の力をまとめてバーベルに伝えられること
・バーベルの自然な動きを妨げないこと
この2点が揃っていることが基本です。
はじめに基本となるフォームを動画で紹介しましょう。
上の動画ではパワークリーンに加えて、ジャークという肩から頭上にバーベルを差し挙げる動作も行っています。
ジャークについては本稿の後半で改めて触れます。
パワークリーンのながれ
まず最初にパワークリーンの一連の流れをここでおさらいしておきましょう。
下記添付の記事も参考にしてみてください。
① セットアップ(動作を始めるまでの準備)
①バーベルの前に肩幅より狭い足幅で立ちます。親指の付け根はバーベルシャフトの真下に来るように。
②フックグリップでバーベルシャフトを握ります。手幅は肩幅よりやや広く持ちましょう。
③腰を深く落として胸を張って構えます。目線は水平より上のどこか一点に固定してください。
④肩甲骨は真ん中に寄せて固定します。
⑤胸から腹にかけてしっかりと息を吸い込み、軽く息を止めて動作開始に備えましょう。
下の記事も参考にしてください。
② ファーストプル(床から太ももの付け根まで)
①上半身の前傾姿勢を保ったままバーベルを引いていきます。
上の写真のように、上半身の角度は引き始めから維持しておきます。
②このとき上半身が起き上がり過ぎたり、逆におじぎしたりすることがないよう注意しましょう。
上は失敗例です。上半身がおじぎして膝は伸び切っています。
③バーベルが膝を越えたところから一気に上半身が起き上がり始めてジャンプの態勢(セカンドプル)に入っていきます。
勢いよく上半身を起こしながら、膝にはジャンプに備えてタメが作られていることを確認してください。
③ セカンドプル(太ももの付け根から鎖骨の高さまで)
ジャンプする瞬間に肩をすくめて、肘を高く引き上げます。
写真のようにジャンプする力と肩をすくめる力につられてバーベルが浮き上がってきます。
足の裏が完全に床から離れているのが分かるでしょうか。
決して腕の力で引き上げている訳ではないので注意してください。
④ キャッチ(鎖骨と肩の上にバーベルをのせて完了)
鎖骨の高さまで飛んできたバーベルを、素早く肘を返しながら鎖骨と肩の上にのせます。
このとき、鎖骨と両肩の上にバーベルの重さが100パーセントのっています。
そのため写真の状態で手を離してもバーベルは落ちません。
これが腕の力で保持されてしまっていると、手首に強いストレスがかかって危険です。
ここまでがパワークリーン一連の流れです。
次の記事も参考になります。
問題のあるフォームとその修正方法
さて以上を踏まえて、よくある問題フォームとその修正方法を紹介していきましょう。
① 腕の力だけで持ち上げてしまう自己流フォーム
スポーツの補強として自己流で始めた方が陥りやすいフォームです。
スポーツクラブで中高年の方がこうしたフォームをされている方をよく見かけます。
なにが問題か
ジャンプの勢いでバーベルを跳ね上げるのがパワークリーンです。
ところが動画では、腕の力に頼った持ち上げ方をしています。
下半身の強大な力で跳ね上げるからこそバーベルが爆発的に跳ね上がってくるのです。
腕力に頼った引き方では充分なトレーニング効果が期待できません。
また全身を振り子のようにして反動を使って挙げようとするためバーベルが振り回され、遠回りする軌道になります。
重いバーベルが余計に重くなる上に、腰にも良くありません。
解決方法
この問題の解決にはパワー・プルアップがおすすめです。
鎖骨の高さまでバーベルを引き上げる、パワークリーンの補助種目をパワー・プルアップと呼びます。
無理やり鎖骨上に運んで保持しようとする必要がないため、ジャンプの勢いでバーベルを浮かせる動作にだけ専念できます。
ジャンプするつもりで爆発的に伸び上がる(つま先は床に残す)。
伸び上がり切る瞬間に力強く肩をすくめる。
するとバーベルがふわりと浮いてきます。
浮いてきたバーベルが再び落下を始める直前で更にもう一度、バーベルを引き上げるように肩をすくめます。
この運動のポイントは、ジャンプするつもりで爆発的に伸び上がるけれどジャンプはしないというところです。
つま先は床から離さないようにして、バーベルを高く引くことに努めてください。
そして引き終わったバーベルが腰の高さに落ちるタイミングで、もう一度軽いジャンプ動作が入ります。
これは身体にかかる衝撃を和らげるために非常に重要な動きです。
ジャンプによる衝撃吸収なしにバサッとバーベルを下ろしてしまうと、急激に筋や関節、神経が引き伸ばされる状態となり、怪我のもとになります。
ですのでパワー・プルアップでは動作1回あたり2回ジャンプすることになります。
② 腰の力だけで挙げてしまう高校運動部員フォーム
強靭な足腰をもつ高校野球選手などに多く見られる、ファーストプルの勢いだけで持っていってしまう荒っぽいフォームです。
なにが問題か
脚を突っ張って、腰だけでバーベルを持ち上げています。
このフォームは腰に悪いのです。
腰を支点に上半身を振り上げるような動きをするため腰が曲がりやすく、腰椎に強いストレスを与えます。
またフォームの性質上、脚の力(太ももやふくらはぎ)を充分に使えないため使用重量が伸び悩むことになります。
解決方法
ファーストプルの勢いだけに頼らず、バーベルを持ってジャンプする動作を覚える必要があります。
そのために有効なのがハイ・プルアップ・フロム・ハングポジションです。
前項で紹介したパワー・プルアップとの違いは
・膝の上で構えたところ(ハングポジション)から開始するのでジャンプ動作(セカンドプル)に集中できる
・ジャンプ動作と肩をすくめてバーベルを引く動作、これらをより高度に協働する練習になる
・ファーストプルの勢いを借りずにバーベルを挙げなければならない
・サイドステップを戻す処理が加わる
など、似ているようでいて細部が大きく異なります。
パワー・プルアップではつま先立ちになるだけで、完全なジャンプは必要ありませんが、こちらは完全にジャンプします。
そしてジャンプで自然に起こるサイドステップのあと、もう一度ジャンプしながら元の足幅に戻している点にも注目してください。
つまりハイ・プルアップ・フロム・ハングポジションの二度目のジャンプは衝撃吸収と共に、広がった足幅を元に戻す役割があるのです。
③ 股関節伸展の力だけで挙げてしまう大文字フォーム
投擲種目の選手や柔道、レスリングの選手など引く力の強いアスリートによく見られます。
股関節で振り上げて上半身を煽り、腕で無理やり引く。
そして高さが足りない分は大開脚で帳尻をあわせる。
なにが問題か
引っ張り上げようとする意識が強すぎて、パワークリーンとは別の運動になっています。
パワークリーンはバーベルを持ったジャンプ動作です。
股関節、膝関節、足関節の3関節が同時に伸展動作を起こすことでジャンプになります。
この動きでは股関節の伸展(引いた腰を前に突き出す動き)しか見られません。
つまり、ジャンプできていないのです。
股関節だけの力で煽っても重いバーベルは十分な高さに浮いて来ません。
そのため大きな開脚で体勢を低くして腕で無理に引っ張り上げようとしています。
腕で引っ張り上げるようなキャッチ動作は手首や肩に大きなストレスをかけやすく、怪我にもつながります。
解決方法
パワー・プルアップによって、全身で引く感覚を身につけましょう。
身体を振り子のように動かして引っ張り上げる意識から、伸び上がる勢いに引く動きを乗じる意識に変えると良いでしょう。
そしてもう一つおすすめの補強種目がナローグリップ・スナッチです。
床から頭上まで、一挙動でバーベルを運びます。
引っ張り上げる意識から、全身を使ってバーベルを押し上げる意識に変えていくことができます。
④ 2段モーション
本稿のはじめに、このように記述しました。
パワークリーンのよいフォームとは
・全身の力をまとめてバーベルに伝えられること
・バーベルの自然な動きを妨げないこと
この2点が揃っていることが基本です。
以上を踏まえて下の動画をごらんください。
大学や専門学校の授業で習ってきた人に多く見られる動きです。
全体のテンポの悪さがわかるでしょうか。
バーベルが膝を越えたあたりで動きが中断され、床から加速してきたバーベルの勢いがここで止まっています。
これを2段モーションと言います。
勢いを止めてから再度、股関節メインで加速し直そうとするのでバーベルの軌道が遠回りします。
結果として前項で触れた大文字フォームと同じ状態になり、大開脚がおこる。
それによって崩れた見た目を取り繕うために慌てて脚を戻す。それがこのフォームです。
力の一体的なまとまりがなくバラバラであり、動きの帳尻合わせにバーベルを止めたり振り回したりしている。
つまり全身の力が連続的につながっておらず、バーベルの自然な動きも妨げられているダメフォームです。
なにが問題か
この問題はトレーニングの現場でフォームを採点する側に立つとよく分かります。
実技テストで採点者の目を気にしすぎる人ほど、こうしたぎこちないフォームになるのです。
・ファーストプルの姿勢はどうかと気にしすぎた結果、スピードが遅くなり二段モーションを起こす
・セカンドプルでの爆発的な加速を強調しようとしてバーベルを振り回してしまう
・キャッチ姿勢で肘がしっかり前に返せているかに意識を取られ、不自然なキャッチ動作をする
・採点者に対して見栄えの良いフィニッシュ姿勢をアピールしようと、あわてて脚を揃える
こうした動きでも採点項目さえクリアしていれば実技テストでは合格できてしまいます。
ですが合格したから上手い、とはならないのが実技テストの仕組みの問題です。
動画の通りスムーズさが欠けており、バーベルへの力の伝わり方や軌道の良さといった動きの素性の良さがないと言っていいでしょう。
これでは使用重量は伸びていきません。
使用重量が伸びないからトレーニング効果も低止まりします。
学校でこうしたフォームを一生懸命勉強して身につけようという人は、いずれ人に指導したいという人達です。
事実、こうしたテスト専用のフォームを正解として覚えてしまった人が現場で指導に立っています。
そんな現状を目にするたびに私は思うのです。
パワークリーンはそんなものじゃないのに、と。
解決方法
自分の動きに常に疑問を持ちながら、ひたすら練習を重ねていくことが重要です。
私自身バーベルを持つたび、自分の動画を見るたびに悩みます。もう少し何とかならないかなと。
グリップ幅を変えたり、腰を下ろしていくまでの手順を考えたり、引き始めの感覚を探ったり、毎回のようにやっていますが感覚は日々変わります。
難しい種目なのは間違いありません。
だからこそ真剣にやる意味があるのだと考えます。
⑤ ジャークについて
パワークリーンで鎖骨と肩の上に保持したバーベルを、頭上に差し挙げる動作をジャークといいます。
胸と腹いっぱいに息を吸い込んで止め、体幹をガッチリ固めてブレないように構えます。
そこから軽く膝を曲げ、ジャンプの勢いでバーを頭上に差し挙げる。
ジャークもパワークリーンと同様、バーベルを持ってジャンプするトレーニングの一つです。
重量物を頭より高い位置で保持する動作は、体幹トレーニングとして見ても非常に強度の高いものです。
ジャークをする前提で行うパワークリーンと、そうでないパワークリーンではそもそもの意識が違います。
少し重心が前後に振れただけで疲労度や成功確率が変わるため、より真っ直ぐな軌道でパワークリーンを行おうという意識になります。
ゆえにジャークを洗練させようとするとクリーンも洗練されていくのです。
ただしジャークの技術やトレーニング効果を体験するには、相応の重量が必要です。
軽いバーベルではジャークならではの感覚がつかめません。
かといってジャークで失敗すると床に落とす以外の方法がないので、バーベルを安心して落とせる環境がないと実施は困難です。
先に紹介したナローグリップ・スナッチで、バーベルを頭上に挙げる感覚をつかんでいくのが次善のアイディアかと思います。
まとめ
以上、3回に渡りパワークリーンについてお伝えしてきました。
パワークリーンで一番難しいことは、教えてくれる人と練習場所を見つけることかもしれません。
そんな中で手探りしながら練習している方へのヒントになれば良いなと考えながら本稿を執筆しました。
自分のパワークリーンをつかめるように練習を頑張ってください。