肩こり&腰痛改善のための家でできる筋膜リリース

昨今、筋膜という言葉を目にすることが多くなりました。

筋膜リリース。筋膜はがし。

その効果は肩こり・腰痛の緩和から美容にまで及ぶと宣伝されています。

そもそも筋膜とは何でしょうか。

筋膜とは何か

筋膜とは筋肉や内臓、脳、骨をはじめ、体全体をまとめて包んでいる膜のような結合組織のことを指します。

たとえば筋肉。筋肉は筋細胞が集まってできています。

筋細胞は髪の毛ほどの太さしかなく、一つだけでは大した力が出せません。

そこで私達の身体は複数の筋細胞をまとめて太い束を作り、充分な力を出せるように作られています。

その束をまとめているものが筋膜です。

あるいは身体全体を「全身タイツ」のように覆うもの、それも筋膜です。

そのほか骨や腱、臓器、血管、神経、脳などをネットのように包んでいるのも筋膜と言われています。

筋膜の構造

筋膜はおもにコラーゲンとエラスチンという、タンパク質でできた線維を編んだようにして出来ています。

柔軟に形を変えられ、強さも兼ね備えた線維であるコラーゲン。

ゴムのように伸び縮みしつつ、元の形状に戻す働きもあるエラスチン。

これらが組み合わされて、柔軟かつタフな筋膜が形作られています。

そして、この筋膜に水分や栄養を与えて動きやすさを保つのがヒアルロン酸やプロテオグリカンといった物質(基質)です。

これらは美容液やサプリメントにも配合されている成分として知られています。

つるつる、すべすべ、保水力。こうしたワードを伴って盛んに宣伝されていますので、どこか耳覚えのある方も多いのではないでしょうか。

そして肌と同様、筋膜もまた水分を保ってすべすべしているのが理想的な状態なのです。

筋膜のはたらき

筋膜は一体どのような役割を持っているのでしょうか。

・筋肉や骨、腱、臓器、血管、神経などをそれぞれ区分して包み込む

・筋肉や骨につながり、臓器をあるべき場所に置く働きをする

・頭のてっぺんから足の裏まで、全身をひとつなぎにするように包むことで「ヒトの形」を作り出す

・筋肉を包み込み、筋肉同士の摩擦を低減させる

本稿では、この筋膜の性質をふまえながら快適で動きやすい身体を作っていく方法について考えていきます。

筋膜のつながり

紀元前3500年からのルーツを持つ解剖学。それはメスによって人体を分解し、構造を解明していこうとするものでした。

しかし現代になり、薬物によって筋肉(および筋膜)以外を溶かす手法によって「メスを使わない解剖」が可能となります。

その結果、かつては個々別々に切り離して捉えられてきた400~600もの筋肉が、じつは筋膜を通じて「つながっている」ことが目の前に示されることになったのです。

たとえば、肩甲骨を寄せる筋肉(菱形筋)と肩甲骨を引き離す筋肉(前鋸筋)。

正反対の役割をもつ筋肉が、筋膜を通じてひとつながりになっているのです。

この「つながり」の深い筋肉群同士を「アナトミー・トレイン(筋筋膜経線)」と名付けて類別してみせたのが、トーマス・W・マイヤースという手技療法家です。

彼はそのエポックメイキングな著書「アナトミー・トレインー徒手運動療法のための筋筋膜経線」の中で、特につながりの深い筋肉同士のつながりが12種類存在すると主張しています。

次の動画では、その中から6種類の経線を挙げて概説しているものです。

 

6つの筋筋膜経線

上の動画で触れられている6種類のラインについて簡単に説明します。

スーパーフィシャル・バックライン(SBL)

足の裏からアキレス腱、ふくらはぎ~ハムストリング、脊柱起立筋と上って後頭下筋経由で額まで来るラインです。

筋膜には張力を伝達する働きがあります。

たとえば猫背により脊柱起立筋に張力が生まれ、SBLを伝って後頭下筋が引っ張られて頑固な首コリ発生、といったケースは珍しくありません。

スーパーフィシャル・フロントライン(SFL)

足の甲から脛、太腿、腹直筋、胸骨筋を経て胸鎖乳突筋と来て、頭までつながるラインです。

私達の身体の前側には、攻撃を受けたとき素早く身体を丸めて防御するため速く動ける筋肉が配列されています。

緊張や恐怖といったマイナスの感情とつながりの深い部位ですので、日頃ストレスの多い人はこのラインがこわばって猫背になりがちです。

スパイラルライン(SPL)

首から脚にかけて身体を「たすき掛け」するように交差するライン。

身体をねじる動作に関与するため、ここに問題が生じると姿勢や運動能力の悪化につながるケースがあります。

 ラテラルライン(LL)

脚の側面(腓骨筋、腸脛靭帯、大腿筋膜張筋、大殿筋)から外腹斜筋ときて、肋骨を覆うように上がって板状筋と胸鎖乳突筋につながるラインです。

このラインに問題が生じるとスムーズな動作や良い姿勢の保持が難しくなります。

腰や膝が痛むとき、大殿筋や大腿筋膜張筋周辺を緩めると改善されることがよくあります。

アームライン(AL)

上の動画では割愛されていますが、この腕につながるラインは4種類あります。

その中で特に肩こりに悩む人にとって重要なのが、スーパーフィシャル・バックアームライン(SBAL)です。

後頭部から僧帽筋、肩甲骨を通って肩、上腕、外側上腕筋間中隔、前腕を通って手の甲、指まで伸びていきます。

肩こりの改善を考えるときに、腕まわりの問題を探ることは重要です。

ファンクショナル・ライン(FL)

運動時、協調的に使われるラインで、3通りあります。

野球のピッチングやサッカーのキック、ボクシングのパンチのような体をねじってパワーを出す時に協働する筋膜の連鎖が示されています。

こうして見てきた通りアナトミー・トレインによる各部のつながりへの意識は、さまざまな問題解決のヒントにつながるのです。

筋膜のリリースとは

以上から筋膜の性質をまとめると

・全身にくまなく張りめぐらされている

・筋膜によって複数の筋肉同士がつながっている

・良い姿勢や身体の動かしやすさに関係する

といったことがわかりました。

そのため、どこかの筋膜に不具合が生じると

筋膜によってつながる他の部分にまで影響を及ぼす可能性がある

・悪い姿勢や、動かしにくい身体の原因になり得る

ということが言えます。

不具合の原因

不具合はなぜ起こるのでしょうか。

筋膜の役割の一つに「筋肉同士の摩擦を低減させること」がありました。

コラーゲンとエラスチンで編まれたネットのような筋膜は、ヒアルロン酸やプロテオグリカン、水分で潤滑されてスムーズに滑るように出来ています。

コンディションの良い筋膜に包まれた筋肉同士は摩擦もなくスムーズに動くのです。

ところが運動不足や悪い姿勢、怪我などによって動かさなくなった筋膜には血行不良が起こります(循環不全)。

その結果、筋膜の滑りが悪くなってしまったり(滑走不全)乾燥によって貼り付いたまま動けなくなることも(癒着)。

筋膜は全身を包む巨大な膜です。足の裏の筋膜に生じた不具合が全身の柔軟性に問題を引き起こすことさえあります。

よって、もし貼り付いて動けなくなってしまった筋膜があれば、アナトミー・トレインを手がかりに解放(リリース)して動きやすくすることが有効なのです。

筋膜リリースの準備

筋膜リリースを始めるにあたって簡単な道具が必要です。

「ストレッチポール」を用意しましょう。

5,000円程度で良いものが入手できます。

 

フォームローラーとストレッチポール

筋膜リリース用として、さまざまなアイテムが市場を賑わしています。

特に昨今は「フォームローラー」と呼ばれるABSの芯材にEVA樹脂で突起を付けた製品が人気です。

カラフルでコンパクト、デザインの面白いものも多く、価格も1,000円前後から販売されています。

ところが実際は硬すぎて痛いものがほとんどで、ゴリゴリのアスリート向きです。

動画のモデルの女性は涼しい顔でフォームローラーを使っていますが、実際は苦痛で顔が歪みます。

ローラーの硬さと得られる効果は無関係ですから、ABSの芯材のないシンプルなストレッチポールを選びましょう。

長さは90cm前後のものが多用途で使えておすすめです。

基本的な動かし方

筋膜リリースは「シワが寄ったシーツをきれいに敷き直す」イメージで行います。

押したり揉みほぐしたりするのでなく押し伸ばすように

・1種目あたり90秒~3分を目安に、ゆっくり時間をかけて。

・急がず力まず緊張せず、リラックスして行います。

さて、さっそく筋膜リリースを始めましょう。

筋膜リリースの実際

胸椎のフォームローリング

肩甲骨の少し下から肩甲骨の上部までの範囲でリリースしていきます。

アナトミー・トレインにおけるスーパーフィシャル・バックラインですので不良姿勢や首、腰の問題がある場合はしっかりとリリースしましょう。

テンポは動画の通り、かなりゆっくりです。

そのまま「イタ気持ちいい範囲」で下背部もリリースします。

首に強い圧をかけてしまわないよう注意して行いましょう。

ハムストリングの筋膜リリース

ハムストリング(太ももの裏)は長時間のデスクワークで循環不全を起こしやすい部位です。

アナトミートレインにおけるスーパーフィシャル・バックラインとスパイラルラインの線上にありますので、こちらも不良姿勢による首や腰の問題を改善するのに重要です。

脚の張りが首まわりの張りにつながるケースも珍しくありません。

胸の筋膜リリース

ストレッチポールの上に仰向けになります。右腕を90度横に開き、掌は上に向けます。

そのうえで左手を胸の中央の骨(胸骨)に置き、動画のような指の使いかたで優しく大胸筋の筋膜をリリースします。

なお動画は大胸筋でなく小胸筋を狙ったものですので、あくまで胸骨のキワから肩に向けて押し伸ばしていくようにしてください。

また鎖骨から下に伸ばしていく方法や、腹筋から肩に向けて斜め上に伸ばしていく方法などもおすすめです。

アナトミー・トレインにおけるスーパーフィシャル・フロントライン、およびスーパーフィシャル・フロントアームラインにあたりますので、猫背の改善や首周りのリラックス効果が期待できます。

また、併せて腹筋のストレッチも行うと効果的です。上体を反らして腹筋を伸ばしましょう。

大腿筋膜張筋と腸脛靭帯のリリース

長時間のデスクワークや車の運転で太ももの横が痛くなる人は、大腿筋膜張筋から腸脛靭帯にかけて筋膜リリースを行いましょう。

痛みが強く出やすい部位ですので、無理のない範囲でゆっくりと慣らしてみてください。

なお、この部位に痛みの出る人は内転筋群(脚を内側に閉じる筋肉)が弱い傾向にあるように見受けられます。

そんな方は脚を閉じるエクササイズを行うことで痛みの軽減が期待できます。

アダクションという種目がおすすめなので、12~15回で3セットを目安に実施してみてください。

大殿筋のフォームローリング

大殿筋をしっかりリリースできると腰や脚の不快な痛みが軽減されます。

動画よりも少しテンポを落としてじっくりと筋膜を押し伸ばすイメージで行いましょう。

お尻の横(中殿筋、梨状筋)のリリースも同時に行うとさらに効果的です。

アナトミー・トレインではラテラルラインにあたりますので、全身の動かしやすさにも関わってきます。

外側上腕筋間中隔のリリース

外側上腕筋間中隔

耳慣れない言葉ですので説明します。筋膜の作用に「筋肉同士の摩擦を低減する」というものがありました。

筋間中隔とは文字通り筋肉と筋肉の中間を隔てています。

この外側上腕筋間中隔という部位は、上腕筋(肘を曲げる筋肉)と上腕三頭筋(肘を伸ばす筋肉)の境目です。

つまり、正反対のはたらきをする筋肉同士が常にこすれ合っている部位となります。

ここは癒着の起こりやすい部位なのですが、あまり耳慣れないため施術家でさえも素通りしがちです。

しかし、アナトミー・トレインのスーパーフィシャル・バックアームラインを参照すると見事に僧帽筋と繋がっています。

肩こりは僧帽筋が固まってしまった状態です。この外側大腿筋間中隔をしっかりリリースして癒着を取ってやると僧帽筋が緩みやすくなります。

動画を参考にガシッと筋間中隔を捉えて、ゆっくり引き剥がすような動きや上下に細かく揺さぶる動きなどを加えて緩めてみてください。

筋間中隔をホールドしたまま腕の曲げ伸ばしを行うのもおすすめです。

 まとめ

筋膜リリースはエクササイズというよりセルフケアに近いものです。

エクササイズと合わせて実施することで、より良い効果が期待できます。

身体をよく動かして体温を上げれば、筋膜の滑りもよくなるのです。

エクササイズといっても特別なことをする必要は全くありません。

お風呂の掃除も、部屋の片付けも、本棚の整理も、洗濯も全てエクササイズです。

こまめに立って身体を動かしてください。

その上で筋膜リリースを活用いただき、快適で動きやすい身体を作って頂ければ幸いです。

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