中高年になると、高血圧や肥満などさまざまな健康上の問題に直面することがあります。
これには、若い時の生活習慣が関係しているとも言われています。
カロリー過多な食事、運動不足、睡眠不足など、不摂生な生活を若いころから送っていては、身体の機能もどんどん弱まってしまうのです。
将来の元気な身体を手に入れるために取り組みたいのが、基礎体力の向上。
中でも、心肺機能の強化は、活き活きとした元気な生活を送るためには不可欠なものです。
そこで今回は、循環機能を高め、強い心臓を手に入れるためのトレーニングを紹介していきます。
健康維持や、スポーツ種目でのパフォーマンスの向上など、目的に合わせて色々な人が取り組むことができるメニューを中心に考えていきましょう。
循環器系について
まずは、心肺機能の強さを決定する循環器系の機能を知ることから始めましょう。
皆さん理解しているであろう基本的なことですが、循環器系の一番の役割は、食物から得た栄養や体内に吸い込んだ酸素を体内に分配することです。
心臓を中心とする血管系と毛細血管から染み出た組織液を中心としたリンパ系があり、体内の環境を活動可能な状態に保っています。
心臓の働き
心臓は、右心房にある洞房結節(ペースメーカーのような役割をする器官)から電気刺激が発せられ、房室結節(刺激伝導系も一部)へと伝わることで拍動を開始します。
これによって心臓から血管を通って全身に血液が流れ、最終的には心臓に戻ってくるわけです。
そして、この拍動の強さや回数は生活習慣によって変わっていきます。
健康な成人であれば、安静時の心拍数は1分あたり50~70回、1回の拍出量は安静かつ仰臥位で約70ml、正常値は60~130mlであるとされています。
つまり、1分あたり約5Lの血液が体内を巡るのです。
高い心拍数は疾患のサイン
身体に異常があると、安静時の心拍数は高くなります。
原因はさまざまで、貧血や呼吸器系の疾患、心不全などから、緊張や不安、ストレスなどの心因性でも心拍数は高くなります。
自分の安静時の心拍数を知り、モニタリングしていくことは健康管理の基本であり、ぜひとも実行したいものです。
その日の体調を確認することで、トレーニングの強度や時間などの調整にも役立てることができます。
「運動したのに心拍数が上がらない」は危険信号
「ランニングなどで身体を動かしたのに、心拍数が上がってこない」といった現象は、体力不足の人に見られます。
通常は運動強度の上昇と比例して心拍数も上がっていきますが、それに耐えるだけの身体の状態が整えられないためにそのような現象が起こるのです。
これは非常に危険で、心臓や血管にとても大きな負荷がかかります。
体力に自信がない人が運動を始める際には、運動時にも心拍数がモニタリングできるようなウォッチなどを使用して強度に見合った心拍数の上昇を得られているかチェックするのがおすすめです。
また、中高年の方で、以前よりも安静時心拍数が高くなり運動時の心拍数が上がりにくくなるといった現象が見られる場合は、心疾患が疑われる場合があります。
安静時同様に、運動時でも日頃から心拍数の菅理を行う習慣をつけましょう。
以下に、自分でできる心拍数の測り方を紹介します。
〇正しい心拍数の測り方
1.人差し指、中指、薬指を手首(橈骨動脈)付近にあてる。(強く押すと抑えた方の血液の流れと間違うことがあるので、程よい圧迫を心がける)
2.15秒間で拍動した回数を計測し、その値を4倍する。(または、30秒間計測してその値を2倍する)
リンパ系
血液循環によって身体中に栄養が運ばれて代謝が行われますが、その際に出た老廃物を静脈と共に回収・運搬するのがリンパ系の働きです。
また、免疫機能に深く関わっているのもリンパ系の特徴で、リンパ球や白血球が体内を循環しています。
リンパ節はリンパの流れに乗って移動する細菌や腫瘍細胞などの異物を除去している重要な部位です。
ここでマクロファージがリンパ液の中の細菌やウイルスなどを食べ込み、破壊して血液中への侵入を防いでいます。
この部分が腫れている時は感染症を起こしているサインです。
よく風邪を引いたら扁桃腺が腫れるといいますが、まさしくリンパ節に存在する食細胞が体内のウイルスたちと戦っている状況だと言えるでしょう。
免疫力は生まれつき決まっている!?
病気になりやすい人、なりにくい人がいますが、これは異物を認識する獲得免疫の能力が遺伝子で決定されていることによります。
トレーニングによって循環器系の働きは高まり、リンパ系においても適応されますが、生まれついた免疫系の強さはある程度決まっているため、伸び幅にも限度がありそうです。
しかし、トレーニングによって高まることには違いないので、健康づくりのために取り組んでおいて損はないでしょう。
リンパの循環は姿勢で変化する?
リンパ液は血液よりも粘度が低いため、姿勢の変化によっても循環が促されます。
長時間椅子に座るなど同じ姿勢を取り続けると循環が停滞するため、1時間に5~10分程度軽めに身体を動かして(立ち上がるなど)一ヵ所に留まっていたリンパ液を全身に回すことを心がけましょう。
特に、ふくらはぎは長時間座るとリンパ液がたまってむくむので、気になる人は締め付けのあるソックスなどを履くと循環を促す効果があるようです。
また、リンパ循環は一方通行で、心臓に向かって集約していくという特徴があります。
セルフマッサージなどで身体をさする場合は、心臓に向かうように行うことを意識しましょう。
健康維持のために心肺機能を高める
ここからは、健康づくりのために必要な心肺機能を高めるトレーニングを考えていきます。
トレーニングといっても毎日の生活で工夫できることばかりですので、体力がないと感じている人でも取り組みやすいものばかりです。
以下の例に倣って、心肺機能の向上に努めましょう。
まずは歩く習慣を!
体力に自信がない人にとって心肺機能の向上に直結するのが、とにかく歩くことです。
いつもは車で行っていた1km先のスーパーまで歩いていく、いつもはエスカレーターを使っていたデパートでの移動を階段に変えてみるなど、ちょっとした場面を歩くことに変えるだけでもかなりの運動時間が生まれます。
文部科学省の資料によると、男性は一日9,200歩、女性は一日8,300歩を目標にすると良いとされています。
これは、約10分の歩行で得られる歩数であり、700~900mほど歩けば達成可能です。
スマホの万歩計アプリなども活用しながら、少しずつ歩数を増やしてまずは1万歩越えを目指しましょう!
取り組みやすいトレーニング
歩くことに加えて、初心者でも取り組みやすい心肺機能を高めるトレーニングでおすすめできるものが2つあります。
一つ目が、シャドーボクシングです。
ボクシング選手だけのトレーニングのように思われがちで見た目ではあまりきつそうに見えませんが、短時間でもきちんと取り組めばかなりの運動量を得ることができます。
加えて、楽しむ要素を取り入れやすいのもシャドーボクシングの魅力です。
まずは3分間動き続けることからスタートして、慣れたらセット数を増やしていきましょう。
☆基本の姿勢
顔は正面をまっすぐに見つめ、胸を張って背筋を伸ばします。
両手のガードを胸の高さまで持ってきて、運動中もその位置でキープしましょう。
両足は肩幅に開き、右利きの人は左足を、左利きの人は右足を前に出して、脇をしっかりと締めれば基本姿勢の完成です。
パンチを出した後も、この姿勢に戻るようにしましょう。
☆パンチの種類
ここでは、初心者向けの4種類を紹介します。
鍛えられる部位も同時に掲載するので、動く際はその場所に意識を向けましょう。
①ジャブ
素早くまっすぐにパンチを打ち出すボクシングでは基本の動きです。
一回のパワーではなくスピードを重要視するので、突き出したら素早く基本の姿勢に戻るようにしましょう。
※鍛えられる部位:二の腕
②ストレート
ジャブとは反対に、スピードよりもパワーを重視するパンチです。
目の前に相手がいることを想定して、力強く拳を叩き込みましょう。
肩が前方に出るくらい上体をひねって、できるだけ遠くまで拳を突き出していくのがポイントです。
※鍛えられる部位:二の腕、お腹回り、背中
③フック
相手の側面を狙って放つパンチです。
自分の身体の外側から内側へと弧を描くように打ち込みます。
この時、下半身全体がブレないように踏ん張ることがポイントです。
※鍛えられる部位:お腹周り、下半身
④アッパー
肘を曲げたまま、下から突き上げるように繰り出すのが特徴のパンチです。
ただ下から上へと腕を伸ばすのではなく、膝を曲げて回転を加えるようにひねり上げるとより運動量が大きくなります。
※鍛えられる部位:お腹周り、下半身
初心者が心肺機能を高めるために取り組みやすいトレーニング、2つ目は踏み台昇降です。
高さ10~40cmぐらいの強度のある台に、階段を上り下りする要領で繰り返し動作を行うだけのシンプルさが魅力だと言えます。
この時、気をつけたいことは以下の通りです。
①腕をしっかりと振ること
②背筋を伸ばすこと
③リズムよく昇降すること
テレビを見ながらなど、取り組むのに高いハードルがないのが魅力な分、ただこなすだけではトレーニングのレベルに達しません。
10分~20分を目標に、できれば毎日行うようにしましょう。
膝に不安がある人は、実施を控えるようにします。
スポーツで力を発揮するために心肺機能を高める
次は運動上級者やアスリートに向けた心肺機能を高めるトレーニングを考えます。
これらの人々にとって必要なメニューを一言でいうなら、インターバルトレーニングです。
高強度の運動と短い休息を繰り返していくトレーニングのことで、かなり苦しい分、心肺機能を高めるのにはうってつけです。
中でも、タバタプロトコルは短い時間で心肺機能を高めるのに効果的だとさまざまなスポーツ種目で採用されています。
タバタプロトコルとは?
20秒間の激しい運動と10秒間のレストを1セットとし、それを8回繰り返す合計4分間の運動がタバタプロトコルと言われています。
HIITトレーニングと呼ばれることもあり、最近では非常にダイエット効果の高いトレーニングとしてメディアでも取り上げられるようになりました。
このトレーニングは、4分間の運動で60分間ジョギングをした時と同様の効果を得られると言われています。
しかし、これは4分間で限界まで身体を追い込めた場合の話で、手を抜くとあまり効果を得られません。
短期集中で取り組むことが重要なのです。
詳しくは以下の記事でも紹介しているので参考にしてみて下さい。
休息も大切なトレーニング
心肺機能を高める上では、いかにして休養を入れるかがポイントだと言えます。
特に、1回の強度が高くなるアスリートにとっては、インターバルトレーニングと休養の配分で能力の伸びが大きく異なります。
心肺機能を高めるトレーニングは週1~2回、多くても週3回を限度として、他の日は種目によって必要になるメニューを組みましょう。
知っておきたい「スポーツ心臓」
持久系の競技に長く取り組む人で高い競技成績を誇る人の中には、「スポーツ心臓」を持っていると評される人がいます。
安静時心拍数が30~40回と極めて少なく、心臓が肥大化しているため1回拍出量が多くなっているのが特徴です。
このような心臓の人は、健康診断などで心雑音から肥大型心筋症を疑われることがあります。
多くの場合はアスリート特有の心臓の変化ですので、健康診断で引っかかってもあまり気にし過ぎないようにしましょう。
もちろん、本当に病気である場合もありますので、気になる方は病院を受診し、どちらかはっきりさせることをおすすめします。
また、スポーツ心臓はトレーニングを長期にわたって中止すると、可逆的に以前の大きさや機能に戻ります。
このような身体の変化があることも頭に入れておきましょう。
更に詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。
まとめ
今回は、心肺機能、循環機能を中心に解説をしていきました。
人間の活動の根幹を担っているのがこれらの機能です。
さまざまな健康レベルや運動習慣の人がいますが、大切なのは自分にあったトレーニングを選択することと、目的を見失わないことです。
そのためには、基本的な機能についての知識をある程度は知っておく必要があります。
自ら学び、意識する姿勢が自発的なトレーニングにつながり、効果を高めてくれることを忘れないようにしましょう。