糖質制限食を考える

今回のテーマは糖質制限食です。

皆さんも一度は耳にしたことがある言葉だと思います。

ダイエットや健康状態の改善を行う際に用いられる手法ですが、その実態がよく分からない人も多いのではないでしょうか?

「なぜ糖質制限食を行うべきなのか?」

「糖質制限食によって私たちの身体はどのように変化するのか?」

さまざまなデータに加え、生理学的な観点から見た推論も含めて、私たちの食生活を見つめ直してみましょう!

日本人は糖質を摂りすぎている⁉

日本人の生活習慣病の代表として知られている病気をご存知ですか?

それは「糖尿病」です。

糖尿病にも2種類あり、先天性でインスリン生成が行えなくなる1型糖尿病と、後天性の2型糖尿病がありますが、後者が生活習慣病として多くの人が発症し、またその予備軍とされています。

過食や運動不足、ストレスなどさまざまな原因が考えられますが、特に食事の部分で見直すべきことが多いのではないのかという見解が広がっています。

血糖を上げるホルモンはなぜ多い?

ここで人間の血糖値を調節するホルモンについて整理してみましょう。

血糖値を上げるホルモンは、「グルカゴン」、「サイロキシン」、「アドレナリン」、「副腎皮質ホルモン」、「成長ホルモン」など多数存在しています。

しかし、血糖値を下げるホルモンは「インスリン」しかありません。

なぜこのように数が不均衡なのでしょうか?

これには、私たち人間の送ってきた生活環境が影響していると考えられます。

人類は約700万年前に誕生し、農耕が始まる約1万年前までは「狩猟、採集、漁労」で食料を調達していました。

穀物が手に入らなかったため、人類はみな糖質制限食を余儀なくされていたと言えます。

しかし、エネルギーを生み出して活動していくためには、最低限の血糖値を維持しなくてはなりません。

そこで、体内にあるわずかな糖質をエネルギーとして効率よく利用するために、たくさんの血糖値を上昇させるホルモンが分泌される仕組みが整ったと考えられます。

対して、常に食料が確保できるわけではないため、体内の血糖値が大きく上昇する状況は皆無に等しく、血糖値を下げるホルモンはインスリンのみで事足りていたのです。

つまり、昔の人間の生活スタイルから、私たちの身体は元々飢餓状態を想定した対策がなされていますが、現代の飽食によってその均衡が崩れ、身体が不調に陥るケースが生まれていることが推測できます。

糖質過多の弊害

過度な食事によって度重なる血糖値の上昇が起こり、インスリンが大量に分泌されることが、インスリンの枯渇を生み2型糖尿病につながっていくという説があります。

それ以外にも、糖質過多は体内に悪影響を及ぼしかねません。

1つ目は、食後3~4時間後に起こる極度な空腹感です。

食事によって血糖値が急激に上昇すると(血糖値ミニスパイク、後述)、インスリンが大量に分泌され、今度は血糖値が急激に低下します。

この低下スピードが速ければ速いほど、空腹感を強く感じるようになってしまうのです。

この現象は特に白米やスナック菓子など精製された糖質を含む食材を摂取すると起こりやすいと言われており、現代の食生活に密接に関係していると思われます。

2つ目は、脂肪分解の抑制です。

血糖値上昇でインスリンの追加分泌が多くなるほど、グルカゴンなどの血糖値を上昇させ、なおかつ体内に貯蔵されている脂肪を分解するホルモンの分泌が抑えられます。

このような事態が繰り返されると、低血糖になった際にも脂肪の分解が抑制されてしまい、糖新生やエネルギー補給ができなくなるのです。

これでは、せっかく運動などでカロリーを消費したとしても、脂肪が燃焼されにくく体型の改善が難しくなります。

トレーニング効果を薄めかねないのです。

糖質過多の弊害、3つ目は動脈硬化や心筋梗塞のリスク増加です。

これには、さきほど少し登場した血糖値スパイクが関係しています。

空腹時血糖値と食後血糖値の差が大きいことを言い、この差が大きいほど体内の血管が傷付いてしまいます。

1日に何回も過剰に糖質を摂取すると、そのたびに血管がダメージを受けてしまうのです。

循環器系の疾患が多いのも日本人の特徴ですが、血糖値スパイクが原因となっているのかもしれませんね。

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空腹が健康促進!

糖質過多が人体に及ぼす悪影響について触れてきましたが、その中で空腹感を増長させるというものがありました。

1日3回の食事が一般的で、間食も摂る人が多い今の日本の食事情だと、空腹感を覚えたらすぐに食事を行うというスタイルが確立されやすいです。

この食事の形式が関係している健康上の問題で、紹介した糖尿病やその他生活習慣病と並び挙げられるのが便秘です。

排泄が疎かになると、体内に不必要な物質がたまってしまいます。

その結果、身体の倦怠感やさまざまな不調をきたしてしまうのです。

空腹時の体内の動き

空腹時には体内でどのようなことが起こっているのでしょうか?

キーワードとして挙がるのが、空腹時に小腸から分泌される消化管ホルモン、モチリンです。

モチリンが分泌されると胃の強い収縮が起こり、それが小腸に伝わって腸が収縮します。(空腹期収縮)

これによって、胃の中に食べ物が入ってくる準備をすると同時に、消化管内の食べ物のカスを奥へ送り、排泄へと向かわせてくれます。

空腹時にお腹が鳴るのは、モチリンの作用によって胃が強く収縮しているからなのです。

また、モチリンは食後約8時間経過すると分泌されます。

そのまま何も食べずに空腹状態が続いていくと、以降は約100分ごとにモチリンの分泌が続き、腸内が整備されるのです。

この胃や腸の掃除が一通り完了する時間は約90分ですが、この間に食事を摂ると、空腹時収縮から食後期収縮へと移行するため、胃腸の掃除が中断されます。

そのため、吸収される途中にあった残骸が残ってしまい、便秘の原因となってしまうのです。

このような、食べ物が胃に入り伸展され腸の内容物が一掃されるような強い収縮が起きる現象を、胃ー大腸反射といいます。

「起き抜けにコップ1杯の水を飲むと良い」と言われているのはこのためです。

食事スタイルを変えてみる

このような胃腸の働きを考慮すると、私たちの食生活に1つの疑問が生じます。

それが、「1日3食」です。

モチリンの分泌が食後8時間で行われることを考えると、大半の人の食生活ではスパンが短すぎることになります。

便秘で悩む人が多い原因こそ、食事回数が多すぎることではないでしょうか。

対策としては朝食の時間を遅くして、昼食を無くし夕食まで時間を空ける「1日2食」などの方法があります。

実践している人も多く、便秘が解消されたという声も挙がっているので試してみる価値はありそうです。

 

肥満にならない食事!

食事で適切な体重をキープするためには、体内の脂肪を燃焼させる必要があります。

しかし、糖質を多く摂取していては、運動によって燃焼できる脂肪の量は減少してしまいます。

エネルギー動員では、脂肪よりも糖が優先的に利用されるからです。

なぜ野生動物に肥満はいないのか?

ライオンやチーターなどの肉食獣を見ると、1匹たりとも肥満でだらしない身体つきをしたものはいません。

その理由は、同じ肉食動物を食べず草食動物を食べるからです。

また、その食べ方にも特徴があり、最初に内臓、すなわち植物性のものを食してから血液を舐め、最期に筋肉を食べます。

腹部に負担がかからないような食事をしているのです。

また、食事に対する姿勢も見習うべき点があります。

それは、空腹になれば狩りを行い、満腹になれば標的がいても狩りをやめることです。

これによって、狩りの間は胃の中に食塊がない状態を作り出し、脂肪などの貯蔵エネルギーを用いて運動することを可能にしています。

食い溜めもせず運動後も安静状態でいるため、食事から得た栄養を必要な分だけ吸収するような身体が出来上がっているのです。

糖と脂肪の燃焼

糖と脂肪の燃焼は、有酸素運動でフォーカスされる場面が目立ちます。

最初の20分は糖の消費割合が高く、その後は脂肪の消費割合が高くなることが広く知られており、一般的です。

つまり、考え方によっては脂肪が有酸素運動においては鍵を握っていると言うこともできます。

人間の身体について考えてみても、脂肪の燃焼は重要です。

糖は肝臓や骨格筋に備蓄されていますが、その総量は200~400g、多くても1500kcalしかありません。

これに対して脂肪は、例えば体重50kg、体脂肪率20%の人では10kgの脂肪を体内に蓄積しており、その総カロリーは約9万kcalです。

基礎代謝が1500kcal/日の場合、糖は1日しか持ちませんが、脂肪は水さえ確保すれば2カ月間もの生存が可能です。

食料が日常的に不足していた時代の人間は、体内に備蓄が多くある脂肪を燃やして生活をしていました。

もちろん糖もエネルギー源でしたが、あくまでも激しい骨格筋の収縮を伴う動き(闘争や逃走)をするときの非常用エネルギーとしての意味合いが強かったのです。

現代の食生活のように、毎日3食糖質をしっかりと食べ、おやつなどの間食でも摂る食生活だと、糖ばかりが利用され、脂肪の動員は就寝中だけになってしまいます。

手っとり早いエネルギー源に頼り、本来利用されていた脂肪が使われにくくなっているのです。

ケトン体体質を目指す!?

サッカー日本代表の長友選手があるインタビューで語っていました。

「身体がケトン体体質になることを目指して日頃からトレーニングや食事を行っています。」

ケトン体という言葉はあまり聞き馴染みがないと思いますが、一体どのようなものなのでしょうか?

ケトン体は、脂肪が燃焼する際に肝臓で作られ、血液中に放出されるアセトン、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酢酸の総称です。

水溶性であり、血液中で脂肪酸のように特別な運搬タンパク質を必要とせず、TCA回路(クエン酸回路)や呼吸鎖の処理が追い付かないときに肝臓で合成され、他の臓器に配られます。

このケトン体がエネルギー産生で多く用いられる状態を作ることによって、大量の脂肪を分解し、糖よりも多くのエネルギーを生み出すことを目的としているのです。

しかし、この理論は未だに広く浸透しているものではありません。

ケトン体自体がどれほどのエネルギーを供給できるかが不明であり、まだまだ未知な部分も多いからです。

あくまで仮説の域を超えるものではありませんが、私たちのエネルギー供給の考え方に一石を投じる上では熟考に値する論だといえるでしょう。

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まとめ

今回はいつもと趣向を変え、一般にはまだ浸透していない新たな説を中心に解説を行ってきました。

糖質制限については懐疑的な見方も多く、栄養学においても意見が分かれるキーワードです。

今回は神経系の働きと絡めて新たな説を提示しましたが、今後も十分に研究を進めていく必要がある分野だと言えるでしょう。

このように真偽が未だはっきりしていない糖質制限食ですが、成績の向上のために利用している団体も出てきました。

北九州市にある個人学習塾、三島塾では糖質制限食を生徒に推奨し、成績が向上しただけではなく、アレルギーが改善したなどの効果があったことを謳っています。

実践に移している例は少ないですが、これから更なる研究が進み、より利点を生かしたプロセスが確立されることに期待しましょう!

 

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