トップレベルのマラソンランナーの走りをテレビで目にすることも多い季節になりました。
さまざまな体格の選手が競い合うなかで目を引くのは、それぞれの個性的なフォームです。
腕をだらんと下げて小刻みに動かすランナーもいれば、地面を強く蹴ってカモシカのようにダイナミックな走りを見せるランナーがいたりと、着目してみると面白いです。
そんな彼らも、効率的で力を存分に発揮できるフォームを長い期間をかけて作り上げてきました。
努力によって手にしたフォームには、速く走るためのヒントがたくさん隠されているのです。
今回はそんな走りを形作るランニングフォームに焦点を当てます。
体格によるタイプ分けや、動きを染み込ませるための練習法、その他注意点などを知ることで、今までの練習に活かして記録の向上を目指しましょう!
まっすぐ立つことから始めよう!
ランニングフォームの基本、それは立位姿勢にあると言えます。
近年はデスクワークの増加や運動時間の減少による筋力の低下、それに関連した筋肉の柔軟性の低下などで立位姿勢が乱れているとの指摘も多いです。
例えば、典型的な悪い姿勢としては猫背が有名で、背中が丸くなって頭が前方へと覆いかぶさるような体勢が特徴的ですね。
見栄えも悪いですが、猫背だと肺の容積が制限されて呼吸に悪影響が出てしまうという報告もあり、運動には向かない姿勢であることが容易に想像できます。
能力の発揮の観点からも、きれいな姿勢は必要不可欠なのです。
理想的な立位姿勢は?
では、理想的な立位姿勢とは具体的にどのようなものなのでしょうか。
姿勢タイプの分類による研究によれば、横から見た時に「耳穴、肩峰、大転子、腓骨頭、外顆2cm前方の5点が一直線上にある時」が理想的な姿勢だと定義されています。
実際に鏡の前に立ち、上の5点を意識して立位姿勢をとってみましょう。
背骨の適度な湾曲、さらに胸の開きも適当なものとなり呼吸が楽であることを実感できます。
この5点を意識した立位姿勢をマスターできたら、次は足元です。
足を肩幅程度に開いてつま先を前方にまっすぐ向けて、両足裏の母指球に軽く体重をかけましょう。
この時に注意するのが膝の向きで、必ずつま先と同じ方向を向けるようにします。
つま先の向きと膝の向きが同じでないと、歩いたり走ったりする際、下半身にひねりの動作が入り余計な方向に負担がかかって怪我につながります。
向きが異なっている人は早い段階で修正しましょう。
母指球への体重のかけ方も均等にしておき、両足で踏ん張る感覚を身につけておきます。
これで、基本的な部分の準備ができました。
立つ⇒歩くへ!
正しい立位姿勢が身についたら、次は歩行動作を固めていきましょう。
歩行動作が立位姿勢を走動作へとつなげるための重要な役割を担っており、ここできれいなフォームが身につくかが決まると言っても過言ではありません。
歩き出す際、まずは1歩目の接地に意識をしっかりと向けましょう。
かかとまたは足裏全体で接地する
昨年大ヒットしたドラマ「陸王」をご覧になっていた方はすぐにピンとくると思いますが、劇中で接地について述べているシーンがありました。
「ミッドフット」といって足裏で接地する走法が推奨されており、かかとから接地する「ヒールストライク」のデメリットについて語られていましたが、決してヒールストライクが悪いわけではありません。
個人の骨格の特性によって向いている接地もそれぞれですので、今回はメリットとデメリットを押さえておきましょう。
ミッドフット
まずは話題になった「ミッドフット」から。
足裏全体で地面からの反力を受け止める接地法で、正しく行えば衝撃が分散されて怪我のリスクが軽減することが分かっています。
しかし、実はかなり習得が難しいもので、接地の際の足裏の動きを勘違いしている人も多いです。
ミッドフットは足裏全体で地面を押す感覚が大切ですが、走っていく中でスピードが上がると、ベクトルが前方に向いてつま先での接地になってしまうケースがよく見受けられます。
つま先接地は太腿前部の筋肉を使ってブレーキをかける作用が働き、身体へのダメージが大きくなるため、ミッドフット習得の際はきちんと足裏前面を使って力を感じる練習を行いましょう。
ヒールストライク
次に、ヒールストライクです。
一般的にはこちらが普及しているのではないでしょうか?
かかとから接地して前方へと力を移動させることで推進力を生み出すことができ、効率的な重心移動を行うことができるのが魅力です。
しかし、これも誤った認識でメリットを活かし切れていないランナーが数多く見受けられます。
陸王で指摘されていたデメリットで、膝への衝撃が大きくなるとありましたが、これはかかとでブレーキをかけることで生じてしまうのです。
ヒールストライクは流れるような体重移動によって効果を発揮するので、極端なかかとへの意識は逆効果となります。
地面へとかかとをぶつけるようにするのではなく、そっと置いてつま先から抜けるような感覚を身につけましょう。
重心の位置を意識!
接地が安定してきたら、歩行動作を固める段階に入ります。
ここで意識したいのが、重心の位置です。
前方への推進力を生み出したいので、もっとも身体が安定する位置に置くことが大切です。
それが丹田と呼ばれる場所で、へその指3本分下の場所を指します。
ここにグッと力を入れると、体幹が安定して身体のブレが少なくなり、状態の上下動も減ります。
その結果、骨盤が水平に動いて推進力を殺さずに進むことができるのです。
腕振りは肩甲骨回りから!
足の動きに合わせて、腕振りも意識しましょう。
歩行動作では大きな動きを大切にするので、大きな筋肉を使って適切な可動域と力の発揮を体感します。
誤った腕振りとしては、肩こりの原因ともなりやすい部位である僧帽筋や三角筋に力が入りすぎているケースが多いです。
これでは腕が後ろに引けなくなってしまい、余計なエネルギーを使って疲れやすくなります。
身体の背部にある肩甲骨の筋に意識を向けて、体幹部から動かすようにしましょう。
その際は、肩甲骨を少し寄せる意識を持ち、極端に脇が開きすぎないようにするのもポイントです。
腕を引いて、骨盤が自然と前に出てくる腕振りが理想なので、歩いていく中で自分に合った感覚を見つけることを大切にしましょう!
歩く⇒走るへ!
ウォーキングをクリアしたら、いよいよランニングへと入っていきます。
今までに押さえたポイントを反芻しながらランニングにも取り組んでいきましょう。
そして、ランニング動作で何よりも気をつけるべき「リズム」にも気を配りましょう。
リズミカルな走りを行うことで全身の連動が生じ、身体の力を十分に使って推進力を生み出すことができます。
自分に合ったリズムは人それぞれで、練習を行っていく中で自然と身につくものです。
しかし、その中でもおおまかに自分のリズムを掴みやすい2つの走法があるので、少し触れていきましょう。
ピッチ走法
ピッチ走法とは、小さい歩幅で脚の回転数を上げる走法です。
支持足の接地時間が短く足への負担が少ないのがこの走法の大きな特徴で、トップレベルのランナーでも特に小柄なランナーがこの走法を多く用いています。
また、ペース変化をつけやすい走法でもあり、足の回転数を変化させることでスピードの強弱を調整できます。
初心者におすすめの走法だと言えるでしょう。
一方で気をつけるべき点もあり、特にスピードを上げた際の接地には注意が必要です。
足の回転数が上がるにつれて地面を強く蹴るような足運びになり、上半身の動きと下半身の動きがズレてきてバランスが大きく崩れることがあります。
特に初心者はスピードを上げると地面を蹴る傾向が強いので、地面を蹴って進むのではなく、素早く足を前方へと運ぶことを意識するようにしましょう。
ストライド走法
ストライド走法は、ピッチ走法とは異なり歩幅を伸ばしてスピードを出す走法です。
ダイナミックで見栄えのする走り方であり、大柄なランナーに向いている走法とも言えます。
ストライド走法でポイントとなるのは、脚筋力の強さです。
一歩で爆発的な力を生み出し加速していきますが、接地時間が長いため衝撃が大きく、それに耐えるだけの体力・筋力が求められます。
難易度としてはピッチ走法よりも少し高めです。
しかしストライド走法は大きく飛躍する可能性も秘めており、十分な体力と筋力が伴ってくれば自然とピッチも上がり、大幅なスピードアップも期待できます。
まずはピッチ走法で走ってみて、その後自分の特性やリズムを吟味した上で導入してみるのも良いでしょう。
フォームに関する注意点
次は、その他ランニングフォームに関する注意点をいくつか挙げていきます。
練習の中で見落としやすい点でもあるので、毎回意識することが大切です。
骨盤の傾き
骨盤の傾きはランニング効率に大きく関わってくる部分です。
接地の際に骨盤を前傾させることで、反対の足が前へと出やすくなり、スムーズな足運びが可能になります。
しかし、日本人の骨盤は骨格上立っているか、または後傾していることが多く、ランニングの際に推進力を殺しやすい身体つきであると言われています。
走る前に体重を少し前にかけるようにして、お尻の穴に力を入れるイメージを持って骨盤を前に傾けましょう。
この骨盤の動きですが、福島・学法石川高校から住友電工へと進み各種大会で実績を残し、東京オリンピックでの活躍も期待されている遠藤日向選手が抜群に優れていると陸上界では話題となっています。
ぜひ彼の走りを見て、骨盤周りの動きを学んでみてください。
腕を振りすぎない
ウォーキングのポイントで、大きく腕を振ることを挙げましたが、ランニングの際は反対に腕を振りすぎないことを意識します。
その理由は、腕を振りすぎると上半身がブレて下半身との連動が低くなり、余計なエネルギーを使ってしまうからです。
そもそも腕振りのメインの目的はランニングの際のバランス保持だと言われており、腕振りがランニングのパワー発揮に関与する割合は約6%であるとの研究結果もあります。
骨盤が動くと自然と腕が振れて、その際にあくまで補助的に作用して推進力が発生するのです。
「腕を振る」という教えは広く知れ渡っており、市民ランナーの方で意識して取り組まれている方も大勢いますが、過度な腕振りでバランスを崩しては本末転倒です。
ランニングの動きの中で、無理をしない程度で振るようにしましょう。
視線はまっすぐ!
足の動きが気になったり、きつくなったりしてついつい下を向いてしまうことはありませんか?
視線の向きはとても重要で、ランニング中は前方をまっすぐと見つめるように意識をしましょう。
これには背筋と首の角度が関係しており、下を向いてしまうと背筋と首が曲がって呼吸が制限されてしまいます。
気持ちの面でも、下を向くと沈みがちになってしまいます。
自分のフォームが気になったり、きつくなったりすることはありますが、視線の向きは変えないようにして淡々と自分のペースを刻みましょう。
自分だけの形を求めて
今回はランニングフォームについての解説を行っていきました。
10人いれば10人それぞれでフォームは違います。
それはそれぞれの骨格が違うからであり、当然のことです。
よく自分のフォームがかっこ悪いからと言って、見栄えの良い人のフォームを真似しようとする人がいます。
その気持ちはよく分かりますが、真似る前に一度、自分とその人の身体の特性や筋力の違いを考えてみてください。
表向きの見栄えだけで判断してしまうと、自分の強みをつぶすことにもつながってしまいます。
安易なフォームの変更は、あなたの可能性を狭めてしまうのです。
だからこそ、日ごろの練習から十分に意識して取り組むことが大切です。
研究を重ね、フォームを少し変えたことで怪我をしなくなったり、大幅に記録を伸ばしたランナーも大勢います。
自分の強み、弱みをきちんと見極めて、他人と比べすぎずに自分だけの形を作り上げていきましょう!