マラソンシーズンとなり、道路を走る市民ランナーの姿を見る機会も多くなりました。
カラフルなウエアに身を包んだ若い女性から、ニット帽をかぶり元気いっぱいに走るお年寄りまで、幅広い年齢層の方が日々トレーニングに励んでいることでしょう。
そんなランナーたちの姿を見て、「自分もランニングに挑戦してみよう!」と意気込む人も多いのではないのでしょうか?
そこで今回は、ランニングを始めたばかりの初心者や、走ることに慣れてきて次のステージへと進みたい中級者が取り組みたい練習メニュー(プログラム)や、気をつけるべきことについて解説を行っていきます。
自分の走る目的やレベルに応じたプログラムとなっていますので、自分のスタイルに合わせたメニューの組み立てが可能です。
練習を行う際の参考にしてみてください。
何を目的として走るのか?
練習を始める前に、まずは自分に聞いてみましょう。
「私は何で走るのか?」
なんだか哲学的な問いかけですね。
しかし、この場合に確認しておきたいのは哲学的なことではなく、ランニングを行う目的です。
というのも、自分が目指すゴール次第で、メニューを組み立てる際に選択すべき練習が大きく異なってくるからです。
例えば、新しくランニングの習慣を取り入れようとしている人でも、毎日の健康づくりのために走る人もいれば、フルマラソンを完走するために練習に取り組む人もいます。
健康づくりが目的であればゆっくりとしたペースで毎日一定の距離を走ることで目的の達成に近づけますが、フルマラソンの完走を目指していく場合には、ランニングの中にも変化を入れていかなくてはなりません。
このように、方向性の違いでメニューの意図も大きく変わるため、自分の走る目的を明確にしておくのは重要なのです。
また、最初にはっきりとした目標を持つことで、練習の継続にもつなげていくことができます。
怪我や病気で練習を中断しなくてはいけなかったり、思うような走りができない時期もあるでしょう。
そのときにゴールさえ明確にしていれば、そこに向かってのアプローチを見つけ出す努力を行えるはずです。
簡単で単純なことですが、実はもっとも大切な準備だと言えるでしょう。
健康づくりのためのランニング
では、最初に健康づくりのためにランニングに取り組む方のプログラムについて解説を行っていきます。
先ほども少し述べましたが、健康づくりのランニングの基本は、ゆったりとしたペースで走ることです。
走ることによって血液の循環や脂肪の燃焼を増加させて体内環境を整備するのが目的ですので、一定の時間に適切なペースでランニングができれば効果が期待できます。
目安としては、30~40分間、誰かと会話をしながら走り続けることができるペース、心拍数を基準にすると、最高心拍数の40~60%の強度が良いでしょう。
実際に行ってみると、さほど苦しくないペースであることが分かると思います。
「あまりきつくないのに、本当に健康のためになっているの?」
このような疑問を持たれる方もいると思いますが、むしろ少し楽な強度で行うのが健康促進には効果的です。
それは、脂肪の燃焼が運動強度の低い持続的な運動で活発になり、心臓収縮力も最大心拍数の50~60%付近のランニングでもっとも高めることができるからです。
安心して、普段のランニングに取り組んでいきましょう。
初心者に必要な気持ち作り
ゆっくり長く走れば効果的と言っても、それを継続して行えるかがポイントです。
特に、今まで走る習慣が無かった方にとっては、何よりも継続して行うことができるかどうかが一番の不安要素でしょう。
よく、「ランニングは毎日やらないと意味がない」という言葉も耳にしますが、そんなことはありません。
むしろ、どのように休みを入れていくかを考えることが重要です。
ランニングを習慣として取り入れたばかりのランナーであれば、最初は週に3~4回走ることを目標にしましょう。
飽きの感情を生まないためにも、できれば毎回コースを変えて景色の変化を楽しんだり、友人を誘って話をしながら走ったり、音楽を聴きながら走ったりといった工夫も必要です。
最初は少し走ることに対して気持ちにも抵抗があると思いますが、そんな不安も練習の中で吹っ飛んでしまいます。
習慣化できればどんどん走ることが楽しくなってくるので、気持ちの変化にも注目しながら練習を行っていきましょう!
ランニングを習慣化できたら・・・
継続したランニングを行えるようになったら、次のステージに進んでみましょう。
今回は、脂肪の燃焼やダイエットに効果的なプログラムを紹介したいと思います。
ランニングだけでも十分なダイエット効果を期待できますが、これにレジスタンス運動を加えていくと、よりたくさんの脂肪を燃焼してくれるので、日頃のトレーニングにプラスしていきたいですね。
レジスタンス運動は自分の体重を使った筋力トレーニングで、筋力の増加による代謝の向上を期待することができます。
近年の研究では、ランニングなどの有酸素運動のみを行うよりも、レジスタンス運動を組み合わせて取り組んだ方がより消費カロリーの増加と脂肪燃焼を促すことが分かっています。
ランニングを行う前にレジスタンス運動に取り組めば、筋肉に刺激を入れて筋活動を促した状態を作り、筋の収縮力が増して力強い足運びにもつながるので、ウォームアップと合わせて取り組んでみてはいかがでしょうか?
ランニングにつながるレジスタンス運動を2つご紹介します。
①フォワードランジ
ランニング動作で重要になる、股関節や下肢の筋群を鍛える運動です。
特に注意するのは、背筋をまっすぐに保つこと。
走っている時と同じような上半身の姿勢を作り、呼吸の取り方にも意識を向けましょう。
②プッシュアップ
上半身の腕ふりをスムーズにするプッシュアップ。
肩甲骨を使う意識を持つことが重要です。
足を伸ばして行うのが難しい方は、膝を地面について足を後ろで組んでから行ってもかまいません。
肩甲骨の周りには、エネルギー消費を活発に行う褐色脂肪細胞が豊富に存在しています。
細胞の働きを活性化させて、消費カロリーを増やしましょう!
フルマラソンを見据えたプログラム~初級編~
ここからは、フルマラソンを見据えてランニングに取り組む方のプログラムを考えていきます。
健康づくりが目的の場合と違い、フルマラソン用のプログラムにはレースを意識した要素が加わるので、運動強度は少し高くなります。
しかし、最初は基本である、ゆっくり長く走ることから始めましょう。
いきなりペースを上げるランニングを繰り返しては、身体が順応できずに怪我をしてしまいます。
そのような事態に陥らないためにも、レースを見据えた「期分け」が大切です。
①足作り期
初心者がもっとも重要視すべき足作り期。
この期間をレースの3~6カ月前に必ず作りましょう。
1~2カ月を費やして、長い距離を走っても怪我をしない脚筋力を養うのが目的です。
メニューとしては、基本となるゆっくり長く走るメニューが中心で、まずは3km~5kmを連続して走ることを目標とします。
それができるようになったら、「3kmスローランニング⇒1kmウォーキング⇒3kmスローランニング」のように、間にウォーキングを挟みながら走る距離を伸ばせるようにしていきましょう。
メニューの頻度としては、1日おきに週3~4回程度でかまいません。
開始直後は筋肉痛がひどく、故障のリスクも高まりますので、湯船に浸かって血流を促したり、マッサージなどのセルフケアが非常に重要です。
②連続ランニング期
足作り期をクリアできたら、次は連続でゆっくりと走ることができる距離を伸ばしていきましょう。
期間としては、レースの2~4カ月前に1~2カ月ほど取り組みます。
この期間の目的は、足作り期で養った脚筋力を確認して、連続で走る感覚を身体に覚えさせることにあります。
心肺機能が連続した運動に適応するまでにかかる期間は個人差が大きいので、最初は10kmを連続して走ることを目標として、それから少しずつ距離を伸ばしていきましょう。
この期間で特に注意したいのは、オーバーワークです。
走ることに慣れてきて練習量が一気に増えがちですが、毎日走る距離を伸ばしていく必要はありません。
例えば、10kmを連続で走れるようになった人は、1週間の中で水曜日と土曜日はもっと距離を伸ばすように挑戦して、他の曜日は5km~10kmに抑えたり休養を取ったりして身体の回復を優先させるなど、1週間の中でも強度に強弱をつけましょう。
この期間を確実にクリアすることで、フルマラソンの完走が現実的なものになってきます。
③実践期
連続で10km以上の距離を走れるようになったら、いよいよレースに向けて長い距離を走っていきましょう。
距離が伸びたことに対する気持ちの障壁を取り払うためにも、実践期は1~3か月前から取り組むようにします。
基本的には、「連続ランニング期」で走った距離を伸ばしていくのですが、ここで取り組んでおきたいのがランニング途中の栄養補給です。
10km以上の距離を走っていくので、運動時間が伸びるほどエネルギーの消耗が激しく、途中でエネルギー切れを起こしてしまう場合があります。
実際のマラソンでも途中での栄養補給は不可欠ですので、練習の段階から自分にあった補助食品や飲料を模索してみましょう。
また、この期間では1回でもいいので20~30kmの距離に挑戦しておくことが重要です。
本番用のウエアやシューズで、余裕を持ったペースで走り切ることを目標にしましょう。
週に1~2回程度、長い距離に挑戦する日を作り、その他の日は「連続ランニング期」同様に5~10km程度のランニングや休養でつないでいきます。
④仕上げ期
レースの1ヵ月前からは、本番に向けての調整を行う期間となります。
この期間が終わればいよいよ本番ということで、自然と長い距離を走りたくなりますが、そこで高まる気持ちをぐっとこらえましょう。
この期間の目的は、本番に向けての体調管理を行うことにあります。
「実践期」でマラソンを走り切るための身体づくりは終わっていますので、この期間に無理に距離を伸ばして走る必要はありません。
特に、この期間で30km近い距離を走るのは、過度に疲労が蓄積してしまい本番にピークが合わないためなるべく控えるのが良いでしょう。
どうしても30km近い距離を走っておかないと不安な場合は、レースの3週間前までに行うようにしてその後3日間を目安として休養を設けます。
この期間の練習は本番を想定した内容に近づけたいので、当日のスタート時間に合わせて走ってみるのがおすすめです。
適度な運動時間と強度を保ちつつ、十分な栄養と休養を取って体調を整えていくようにしましょう。
フルマラソンを見据えたプログラム~中級編~
次に、フルマラソン完走だけでなく、タイムの向上を目標とするランナー向けのプログラムを考えていきます。
練習の流れとしては初級編と同様で4つの「期分け」が基本ですが、レベルを上げるならば、軽めのランニングが中心だったメニューの中にインターバル走も取り入れてみましょう。
インターバル走とは、疾走期と緩走期を繰り返し行って、酸素の摂取能力の向上を図るトレーニングです。
強度が高くきつい練習ではありますが、その分効率的な心肺機能の向上が期待できるため、ぜひとも取り入れたいメニューでもあります。
ある程度ランニングに慣れたランナーであるならば距離への抵抗も大きくないため、「足作り期」でゆっくりと長く走るための脚筋力を作ったあとは、週1~2回程度、定期的にインターバル走を取り入れてみるのもいいかもしれません。
インターバル走にもバリエーションがたくさんあるので、いくつか例を挙げてみます。
200m×10~15本(rest 100m walk)
400m×6~10本(rest 200m jog)
1000m×3~5本(rest 400m jog)
距離が伸びるにつれて強度が高めのインターバルメニューとなっています。
ここで気をつけたいのが疾走期のスピードで、10本行うならば10本目まで保てるギリギリのペースを見極めることが重要です。
前半に速く走りすぎて、後半にペースダウンしてしまっては練習効果が半減してしまうので注意しましょう。
不整地を走って脚力アップ!
インターバル走に加えて、中級者のトレーニングプログラムにぜひとも取り入れたいのが、山道やクロスカントリーなどの不整地を用いたランニングです。
平地を走る場合よりも高い安定性が求められるため、下肢の細かい筋肉を導入して脚力の向上に大きな効果が期待できます。
また、アップダウンのあるコースが多いのも特徴です。
登りでは、強い体幹が求められるので自然とインナーユニットに負荷がかかり、心臓への負荷も増すので循環器系の強化につながります。
反対に下りの場合は、平地よりも楽にスピードがでるため、ランニング効率(ランニングエコノミー向上)の改善が期待でき、推進力を得ることができるのです。
これらは平地を走るだけでは習得しにくい部分でもあるので、積極的に取り組むと能力向上に大きく貢献してくれることでしょう。
ただ、捻挫等の怪我のリスクも高まるので、細心の注意が必要なことを忘れてはいけません。
100人いれば100通りのメニューがある!
今回は目的・レベル別のトレーニングプログラムについての解説を行いました。
いくつかメニューを提示しましたが、これはあくまでベースであり、必要に応じて変更を加えていく必要があります。
自分の身体は自分が一番知っています。
身体の声を聞いて、それに応えるようなメニューを組みたてて取り組むことが何よりも大切なのです。
自分で納得のいく計画を立てて、それを達成していく喜びを味わい、楽しく持久力を高めていきましょう!