使える筋肉をつくる!はじめてのパワークリーン完全ガイド②

前回の記事ではパワークリーン動作の前半までを紹介しました。

本稿ではその続きを紹介していきます。

さっそく始めていきましょう。

4 ハイ・プルアップ・フロム・ハングポジション

前回のハング・ジャンプ・シュラッグでは体を伸び上がらせる勢いを使ってバーベルを浮かす練習をしました。

丁度ジャンプに備える時のように、わずかに前傾姿勢を取って構える(ハングポジション)。

勢いよく伸び上がり(ジャンプ)ながらバーベルをフワリと浮かせ、そのタイミングで肩をすくめる(シュラッグ)。

腕で引こうとするのを我慢しながら、全身を使ってバーベルを浮かせる動作でした。上手くできたでしょうか。

その続きとなるのがこのハイ・プルアップ・フロム・ハングポジションです(ハイプルという略称が一般的)。

ハングポジションから、ジャンプの勢いと肩をすくめる動作を協調させてバーベルを鎖骨の高さまで引き上げる種目です。

ハングポジションからジャンプをすると、バーベルは鼠径部に軽く接触しながら勢いよく浮き上がってきます。

その浮いたタイミングに合わせて肩をすくめます。このとき肘を高く上げるように意識してください。

バーベルの軌道を身体から離れないようにコントロールするために必要な動きです。

そしてバーベルを下ろすとき、そのまま落とすのではなく軽くジャンプして衝撃を吸収するようにします。

また、わずかにサイドステップを行っているところも確認してください。あくまで「わずかに」というのがポイントです。

このとき大きくサイドステップする癖がつかないように気をつけてください。

地面を蹴るために使うべき時間を、脚を開くために割くことは全くのムダになるからです。

また、のちのち高重量を扱うための発展的な技術が必要になったとき、大きなサイドステップ癖は学習の妨げになります。

なお動画の1回目の動作ではややバックステップが出ていますが、私の修練不足です。

人によってステップが前後する傾向はありますが、真上に跳ぶのが基本です。

急にスピードの要素が加わって難しそうに見えますが

・真上にジャンプ

・肩をすくめて、肘を高く引く

・引ききったタイミングで軽くサイドステップ

・落とす時も再度1回ジャンプ

この流れを念頭に置き、動画を参考に練習してみてください。

5 オーバーヘッド・スクワット

これまではバーベルを床から引き上げるフェーズの練習種目を紹介してきました。

ここからは鎖骨の上にバーベルを保持する練習種目です。

動画の種目をオーバーヘッド・スクワットと言います。

頭上にバーを保持した状態で、深くしゃがんで立ち上がる動作です。

単純な種目に見えますが、実際は肩関節、胸椎、股関節、足関節に高い柔軟性がないと正確な動作ができません。

この種目をここで行う理由は、パワークリーン全般に必要な柔軟性を確認しておくためです。

注意点としては

・かかとを絶対に浮かさないこと(どうしても浮く場合はリフティングシューズの使用を検討してください)

・胸を起こしたまま深くしゃがみ切ること(おじぎしないこと)

を留意して行います。

足首が固いとかかとが浮きます。それだとファーストプルの腰を落とした基本姿勢が取れません。

肩が固いと、鎖骨上にバーベルを安定的に保持する姿勢が作れず、腰を反らせて帳尻を合わせることになります。

このことを代償動作と言い、腰を痛める原因になるので注意が必要です。

怪我をしないために

パワークリーンに必要な柔軟性が欠けていると、正確な動作ができないだけでなく重大な怪我や事故にもつながりかねません

さきごろ、アメリカの有名な女性フィットネス・インフルエンサーがパワークリーンに失敗して手首を骨折する事故があったばかりです。

パワークリーンと他のトレーニング種目の決定的な違いは、失敗したとき事故から自分の身を守れるのは自分の技術しかないという点にあります。

バーベルを挙げようとしてバランスを崩した瞬間、補助者が駆け寄って助けてくれる訳でもなく、パワーラックが安全を確保してくれることもない。

パワークリーンは、実は難しくて危険な種目だというのを忘れてはいけません。

それでもなお多くの人が行っているのは、パワー向上の高い効果とテクニックの面白さがあるからです。

ですので先を急がず、自身に足りない要素があればそれを補いながら、確かなテクニックを身体に入れていきましょう。

6 キャッチ(+フロント・スクワット)

素早く肘を返して、鎖骨上と両肩の三点でバーベルを保持する練習です。

パワークリーンでは、この動きをキャッチと呼びます。

ジャンプの勢いでバーベルが浮き上がってくるのはほんの一瞬の出来事です。

そのため、浮いてきたバーベルは素早く鎖骨上と両肩の上に据える必要があります。

できるだけ肘を素早く返すことに集中しましょう。

そして鎖骨上にバーベルをのせたまま、オーバーヘッド・スクワットの要領で深くしゃがんでいきます。

この動作をフロント・スクワットと言います。

注意すべき点はオーバーヘッド・スクワットとほぼ同じです。

・かかとを浮かせないこと

・胸を起こしたまま深くしゃがみ切ること

特にしゃがんでいくとき、肘が下がって太ももに触れることは厳禁です。

仮にバーベルを保持したまま肘が太ももに接触すると、手首に強いストレスがかかり骨折のリスクが生じるからです。

また、そのまま手首がロックされた状態ではバーベルを投げて逃げることもできないため、最悪太ももに落とす羽目になりかねません。

重さ次第では膝や足首、太ももの大怪我にもつながります。

重量挙げの試合でも、肘が太ももに接する動作はその危険度から即、反則になるので覚えておきましょう。

パワークリーンの効果と危険性

閑話休題。

ここで改めてパワークリーンの危険性について触れておきます。

パワークリーンにおいて危険から自分の身を守れるのは自分の技術だけだ、と先ほど述べました。

こう述べると、ときどき反論をいただきます。

「別に重量挙の競技をやるわけでもないのに、そんなに重いのをやる必要があるのか」と。

しかし、これは誤解です。

重いバーベルを爆発的な動作によって持ち挙げるからパワーが獲得できるのです。

厳しい言い方ですが、鉛筆をいくら熱心に持ち上げてもパワーはつきませんし、美しいフォームでほうきの柄を持ち上げてもダンスにしかなりません。

具体的な成果を求めて行われる身体操作をトレーニングと定義するならば、成果が期待できないトレーニングはトレーニングと呼びません。

高重量ですので扱い方を間違えたら怪我をする。それは当たり前です。

高重量を安全に扱う技術がパワークリーンであり、その先にトレーニングと呼べる条件が成立するのです。

しかし基本は基本として、重さにこだわらず丁寧に練習してください。

それと同時に、重さから逃げずに技術を磨いていくことも必要です。

7 パワークリーン

これまで紹介してきた1~6の種目を一つにまとめたものがパワークリーンです。

上記画像を見れば跳び上がっている様が分かります。

ジャンプすると体は一瞬、宙に浮き、その際床にかかる重さが瞬間的にゼロになります。

ジャンプの勢いでバーベルを浮かせる、つまり重りを持って跳ぶ練習をするのがパワークリーンです。

パワークリーンによってパワーが向上すると

・走るとき

・投げるとき

・打つとき

・引っ越しで荷物を持ち挙げるとき

など日常動作からスポーツの動作まであらゆる動きにおける速さや切れ、力強さの向上を実感することができます。

動画だけでは分かりにくいので、フェーズごとに解説を補っておきましょう。

パワークリーンのフェーズ解説

パワー・クリーンの動きは

・ファースト・プル(バーベルの位置が床から鼠径部の間にあるときの動き)

・セカンド・プル(バーベルの位置が鼠径部から鎖骨の高さの間にあるときの動き)

・キャッチ(バーベルを鎖骨と両肩の上に保持する動き)

3つのフェーズに大別されます。

それぞれを詳しく見ていきましょう。

① 構え

チェックポイント

・腰を深く落として構えているか

・目線は斜め上の一点に固定できたか

・肩甲骨を寄せて胸を張れているか

フックグリップで握れているか

② ファースト・プル(引き始め~膝位置のハングポジションまで)

チェックポイント

・上半身の深い前傾姿勢を保ったまま引けているか(尻が最初に上がってしまっていないか)

・胸をしっかり張れているか

・背中が曲がっていないか

・バーベルが膝まで来たとき、肩はつま先より前で保てているか(重さに負けて体が起き上がっていないか)

③ ファースト・プル~セカンド・プルの移行部まで

チェックポイント

・体からバーベルが離れていないか(肩甲骨を寄せてバーベルを体に引き付けておく)

・鼠径部の高さまでバーベルを引き上げられているか(ジャンプするタイミングを早まらない)

④ セカンド・プル

チェックポイント

・思い切り跳べているか(腕で引きあげようとして不十分なジャンプになっていないか)

・バーベルを振り回していないか(軌道は直線的であるほど良い)

・ジャンプと同時に、瞬時に肩をすくめてバーベルを加速できているか(下半身と上半身の協調的動作)

⑤ キャッチ

チェックポイント

・素早く肘を返しているか

・鎖骨の内側にストンとのるようにキャッチできているか

・鎖骨と両肩にバーベルの重りがのせられているか(手首や肩が辛いのは受け方を誤っている)

・手首が痛いのはバーベルの保持位置を間違えている証拠(キャッチを練習すること)

・大げさに肘を返したり、中腰のポーズを取る必要はない(本質的かつ機能的な動きをめざす)

パワークリーン上達のために

以上、パワークリーンの練習法をご紹介してきました。

あとは練習あるのみです。

上記に挙げた注意点を参照しながら、フォームと使用重量の両面ににこだわって練習を重ねてください。

・・・ところが、です。

パワークリーンの上達には二つの障害があります。

練習場所と指導者の不在です。

練習場所がない!

私が通っている公営体育館のトレーニング場が、パワークリーン禁止になりました。

パワークリーンではバーベルを床に投げ落とす(ドロップと言います)動作が付き物です。

他のトレーニング種目とはスピードが桁違いのため、失敗したときはバーベルを床に投げ落すしかありません。

その時の音や振動を嫌がる一般利用者は非常に多いのです。

前からクレームの声が寄せられていたことは知っており、だいぶ気は使っていたのですがこういう結果になりました。

ですので、幸いにも落とせる環境で練習できる方は、施設管理者や他の一般利用者と上手くやってください。

練習前に周りに一声かける、管理者と日頃から話をしておくなど、コミュニケーションを上手に取りましょう。

ドロップ可能な環境はこうした公共施設や、ごく一部のアスリート専門ジムを除くとほぼ無いのが現状です。

なお筆者は今後、バーベルを買って庭先で練習しようと考えています。

どうしてもバーベルには手を出しづらい方は、こちらもおすすめです。

教えてくれる人がいない!

パワークリーンに興味を持ったあなたが、バーベルをバンバン投げ落とせる場所に初めて行ったとします。

普通のフィットネスジムとは異質な殺伐とした雰囲気に足がすくむはずです。

補強種目としてパワークリーンをはじめとする重量挙げ競技の種目に関心をもつ人が増えてきました。

反対にバーベルを落とせる場所には専門競技として重量挙げ競技を行う人が集まってきます。

補強種目と専門競技では、同じような動作であっても別物と言ってよいほど違うのです。

こと重量挙げ競技者には特有のクセがあります。

・基本的に体育会系である

・個人種目のため、一匹狼タイプが多い

・競技目的でなく完全に趣味として楽しむ人の割合がゼロに近い(少なくとも筆者は会ったことがありません)

・一回一回の試技に極度に集中して臨むため、ピリピリした雰囲気がある

インターバルでラインやゲームを楽しみながらマッタリやりたい人には決して向きません。

自分のスタイルで自由に楽しめるジムというよりは、空手や柔道の道場に近い雰囲気があります。

そんな中に入って、「さあ誰か教えて下さい」というのはかなりハードルの高いことです。

ですので、重量挙げに入門するつもりで練習場に行ってみてください。

ジムのつもりで勝手気ままにやるのはNGです。

人の集中を妨げない。おしゃべりをしたり、試技中の人の視界に入らない。

一通り挨拶をして、真剣に練習する。

プレートの付け外しを手伝う。

練習の合間に、少しやり方を訊いてみる。

こうした場に馴染む気遣いを持ってさえくれれば、そのうち教えてくれる人が出てきます。

マイナー競技なので、新しい人がこちらの世界に興味を持ってくれるのは実は嬉しいことです。

個人競技とは言いながらも、一人でバーベルに向かい続けるのは苦行ですから内心、仲間が欲しいのです。

そもそも重量挙げ種目のティーチングプロを探すのは非常に困難です。

指導者を探し歩くより、助言してくれる人のいそうな場を探す方が人間関係も広がって良いと思います。

まとめ

技術的にも環境的にも習得がむずかしいパワークリーンですが、パワー向上のためには取り組む値打ちのある種目です。

これまで多くのアスリートに指導してきたトレーナーとして、確信を持って言えます。

きついトレーニングになりますが、頑張っていきましょう!

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